メディアとのつきあい方講座

「情報モラル」についての特別座談会

特別座談会 「教育現場の情報モラル」
〜急激な情報化のなかで 子どもたちに求められる能力とは?〜

メディアの選択能力を養い “見えない”相手をイメージさせる

●赤堀

前半の話ですが、子どもたちは、現実世界で悪口を言い合ったり、喧嘩をすることはよくある話だと認識している。しかし、それがヴァーチャルになると、たちどころに広がってしまうので、戸惑ってしまうのでしょうね。現実とメーリングリストの世界の区別がなくなってくる。これは考えなくてはならない問題ですよね。

しかし、興味深いのは子どもたちが自らルールや概念にたどり着いていくことです。

●原田

大変なハードクレームユーザーと捉えられる人でも、最後にフェイス・トゥ・フェイスで話をすると、トラブルシューティングできなかった例はひとつもなかったんです。コミュニケーションには、手紙、電話、フェイス・トゥ・フェイスなど、いろんなツールがあります。この三つのなかで一番簡単に強烈な伝え方ができるのは手紙なんです。そして、メールはさらにその傾向が強い。うまく使い分けることができればコミュニケーションは豊かになるのですが、逆手に取ると大変な武器になる。

私は家内とのコミュニケーションが三つあります。フェイス・トゥ・フェイスで話をすること。電話でやりとりすること。もうひとつは携帯電話のメールです。「小遣いが足らないから少しほしい」というのはメールを使う。そこそこの話は電話で、顔を見ながらのときは良い話をするわけです。私は現在単身赴任ですから、この三つを使いますと一緒に住んでいたときよりも、よいコミュニケーションができる。こうした効果を悪用すれば大変なことになります。

●久保田

私は子どもたちに、メディアを選ぶことから勉強させています。私にプレゼントをねだる時は、小さな紙に最近の報告をしながら、「それで、欲しいものがあるんだけど…」と書けば、一番効果があることを、彼らは経験的に知るわけです。同様に子どもたちは、ネットにおいては議論しても意味がないことに気が付くかもしれない。

野間さんの話で興味深いのは、メーリングリストという場所だからこそ、優しい言葉を使って問題を解消させようという知恵が、子どもたちのなかから出てきたこと。それはメディアを選んでいる子だからできるんですよ。「情報を伝えるときに、どのメディアを使うべきか」を、子どもたちに考えさせるのは有効だと思います。携帯電話をたくさん持っている子が「コミュニケーション能力が高いのか」と言えば、私は逆に低いのではないかと思います。

●赤堀

教育界のなかでは「コミュニケーションは対面がよろしい。メディアを介在したヴァーチャルな世界ではコミュニケーションが通じない」という二分法で捉える傾向が強い。しかし、メディアの選択能力が重要であるということですね。

いずれにせよ現代においては、必ずメディアが介在する。その上では、原田さんのお話のように良いコミュニケーションを構築できる可能性もある。

●久保田

先日、ファイル交換ソフトの摘発をしたので、連日マスコミからの取材があるのですが、ファイル交換の技術自体が悪いわけではありません。それをいかに使っているかが問題なわけですから。これも、メディア自体を悪とみなすという点では、よく似ていますね。

有害情報を跳ね返す力はいかに身につけさせるのか

●赤堀

先ほど、野間先生がチェーンメールの話をされましたが、外部から流れこんでくる有害情報も大きな問題です。

これはフィルタリングやレイティングといったソフトで技術的にシャットアウトしようという動きと、情報モラル教育で対応するという二つの方向があります。後者ならば、どんな力を身につけなければならないのか。野間さんの授業では有害情報が入ってきたときの判断力をいかにして養おうとしているのですか。

●野間

正直なところ、その点は模索段階です。ただ、ネットに関する知識を吸収していく中で、判断基準が育つのではないか、と期待しています。もちろん、しっかりと形にしていきたいと思っています。

●赤堀

以前に比べるとまるでシャワーのように情報が降りかかっています。そのままにしておけば、染まるのは当然です。ならば、はじき返せるだけの能力を持たなければならない。これをいかに身につけさせるのかは難問ですよね。

●久保田

親子の間に「子どもの頃は俺だって見たけど、いい加減にしろよ」というような会話ができる素地さえあれば、たかだか人間が考えている有害情報など、知れていると思います。ただし、現在と違うのは情報の量ですね。

●原田

量もそうですが、レベルの強烈さも違う。この点については、大人である私たちの手で、なんらかのブレーキを掛けていかなければならないという側面はあると思います。すべてを子どもたちに判断させるのはかなり難しい。

せっかくこんなに良い情報を手のひらの上に乗せることができる時代になっているのですから、学校の現場では「このツールを最大限に使うと、こんなに楽しいことができるんだよ」ということを徹底的に体験させてあげればいいと思います。人間、楽しいことならば、のめりこみますよね。逆説的な言い方かもしれませんが、1日は24時間しかありませんから、悪いことをやっている時間がなくなる。

●野間

原田さんのご意見を聞いて、教師として「もっとがんばらなければ」と思いを強くしました。

●赤堀

確かにインターネットの世界は玉石混交です。もっと豊かになれる反面、害もある。ただし、我々が生きている現実世界は良いものもあれば、悪いところもある。それが現実ですよね。

●久保田

そうですね。都市の論理と同じことが言えるかもしれません。雑駁なところがあるから生活がある。

●野間

有害情報というと、イコールアダルトと捉えられることが多い。アダルト情報に関しては、さきほどの久保田さんのような考えがあるのであまり心配していません。私が怖いのは、「インターネット世界においては被害者が次に加害者になる」という図式です。詐欺をされた人が次に詐欺をしてしまう。現実社会では被害者が加害者になることはまれです。例えば架空高座の情報も取れますし、そうした点を見落としてはいけない。

●村岡

アダルトサイトは、ある意味で平和的だとも言えます。しかし、殺人の仕方から、ボタンを押すだけで国際電話がかかり搾取されるような仕組みもある。

また、メーカー側から見れば、これはおそらくエプソンさんも同じ課題を抱えていると思いますが、消費者が武器を持ったという言い方もできます。メーカーに直接クレームを言うのではなく、インターネット上の掲示板に批判が書かれる。

つい最近「MacOS10」で動くATOKが、お客様の環境では動かなくなるというクレームがありました。しかし、我々の環境ではどうしてもその現象が再現しないんです。しっかりと対応はしているのですが、そのやり取りのすべてを弊社のサポート担当社員の実名を挙げて、サイトに公開されてしまいました。

確かに「そうしてはいけない」という契約はないのですが、やはり信義に反する部分がありますよね。

●原田

同じトラブルにおいても、それが不条理に大きな問題になる可能性をはらんだ怖い土壌が育ってきているのは事実だと思います。