メディアとのつきあい方講座

メディアとのつきあい方学習への招待

第4回 メディつき学習を「広める」ために
原香織先生(東京都文京区立青柳小学校主幹)
×吉野和美先生(静岡県富士市立田子浦小学校教諭)

メディつき的
カリキュラムを作る

──メディつきに取り組むことで、既存の教科学習の時間が圧迫されるのではないか、という心配をされる先生方もいらっしゃるようですが。

「これは先程のエッセンスのお話にもつながるんですが、教科学習とメディつきは、とても相性がいいんですね。メディつきは、教科とは別のところにあって教科を圧迫するような存在ではなく、むしろ融合して、教科の学びを膨らませるものと位置づけることがポイントです。学習指導要領のメディつき的な視点をうまく活かしたカリキュラム(次ページにて作成例紹介)を作っていきたいですね」

──学習指導要領に、メディつき的な視点が組み込まれているのでしょうか。

「はい、組み込まれています。私は以前、学習指導要領の内容を分析して、『情報モラル』との関連性を見いだす研究をしたことがあるのですが、その結果、全教科・全領域に、まんべんなく『情報モラル』を指導する機会がある、ということが分かったんです。つまり、『情報モラル』は、学校教育活動全体のあらゆる場面で指導することができるんですね」

──いつ、どの段階で、どこまで指導するかを決めるには、どうしたらいいのでしょう。

「肝心なのは、子どもたちの発達段階に応じた目標を立てることです。そのためには、子どもたちの実態を把握しなければなりません。子どもたちを取り巻くメディアについて知り、どの段階で、どんなことが求められているのかを知ることが大切です」

──吉野先生の前任校である静岡県富士市立元吉原小学校では、研究開発校として独自のカリキュラムを作成されていたそうですね。
吉野「はい。2000年度から2002年度までの3年間、小学校における独立教科「情報科」のカリキュラム開発を行っていました。2003年度には研究開発校の指定が終わって、情報科としての独立教科はなくなりましたが、開発した情報科のカリキュラムに手を加え、メディつき的カリキュラムとして、総合的な学習の時間の中で実践しています」

──カリキュラムがあることの「よさ」とはどんなことでしょう。

吉野「当然ですが、指導のよりどころになりますよね。自分が教えていることが全体の中でどんな位置関係にあるのか分かりますし、さらに他学年との関連が見えることで、授業のイメージが具体的になります。総合的な学習の時間のみならず、他教科への広がりも期待できます」

──子どもたちにとってのメリットはどんなことですか?

吉野「学年ごとの連携が明確なので、前学年で培った経験・力を活かすことができます。操作だけの授業に終わらず、本来の授業のねらいに沿った学びが可能となります」

──カリキュラムの策定において、気をつけなければならないことはありますか?

吉野「重要なことが2つあります。1つは、カリキュラムは先生方全員で練り上げていくこと。もう1つは、カリキュラムは絶えず見直す必要があるということです」

──全員参加で練り上げていくことが大切なんですね。一方で、絶えず見直すというのはなかなか大変なのではないかと思いますが、それは、メディアを取り巻く環境の変化の速さに対応するためなのでしょうか。

吉野「もちろん、子どもたちに身に付けさせたい力の本質は変わりません。しかし、取り扱うメディアという材料は日々見直す必要がありますよね。インターネットにはアクセスするけれど、それがパソコンでなのか携帯電話でなのか、そういった子どもたちの実情は移ろいゆくものです。インターネット上のマナーも不変ではありません。が、ネットの向こうに相手がいること、そして相手を思いやることは普遍的な本質ですよね」

メディつき視点を生かしたカリキュラム作成の手順[情報モラル]

メディつきを
保護者にまで広める

──ところで、メディつきを広める上で、学校外、特に保護者とのかかわりも重要になってくると思いますが

吉野「はい。確かに、子どもたちは家庭でも多くのメディアと接していますから、家庭の理解は大切です。私の場合は、メディつき学習での課題を、子どもたちに持ち帰らせるようにしています。そうすることで、保護者も子どもと一緒に考えてくれるんですね。学校現場で、子どもたちにどんな力を身に付けさせようとしているのか、保護者の方々に自然と伝わっていきます」
「保護者会での説明や、保護者を対象にしたメディつき勉強会の開催などを地道に繰り返すことも、やはり大切ですね。私たち教師もそうですが、今の保護者の世代はメディつきを経験していません。ですから、まずその内容や必要性を理解していただくことがスタートとなります。学級通信やホームページなどで継続的に訴えていくのも効果的ですね」

──そこから一歩進めば、保護者の方々の力を授業の中で活かすことにもつながりますね。

「保護者の方にゲストティーチャーとして活躍していただくことはもちろん、保護者を対象とする情報モラル勉強会で講師になっていただいたこともあります。同じ保護者としての視点で語っていただけるので、参加された皆さんにもとても好評でした」

吉野「保護者への啓発のみならず、保護者とともにメディつき学習に向き合っていきたいですね」

「広める」ための第一歩は優れた実践から

冒頭で原先生がおっしゃっていた通り、メディつきを広めるために一番大切なのは実践です。優れた実践を行い、その効果を体感し、教師自身がメディつき体験を共有することが広めるための第一歩となります。[実践編]に掲載されている多くの実践はもちろん、メディアとのつきあい方学習実践研究会のサイトからダウンロードできる授業実践パッケー ジなども活用して、どんどんメディつき実践を広めていってほしいですね。

堀田龍也先生堀田龍也(ほりた・たつや)先生
独立行政法人メディア教育開発センター 研究開発部・助教授
文部科学省初等中等教育局 情報教育参事官付・参与
東京大学大学院情報学環ベネッセ先端教育技術学講座・客員助教授

メディアとのつきあい方学習実践研究会

http://mdtk.mlk5.net/



取材/西尾真澄 撮影/西尾琢郎

※本文中の情報は、すべて取材時のものです。