見える「評価」で授業が変わる! 〜ルーブリックで授業作り〜

第2回 私たちはなぜルーブリックに取り組むのか
岡山県岡山市立津島小学校 三宅貴久子(みやけ・きくこ)先生
徳島県三好市立落合小学校 石井芳生(いしい・よしき)先生
富山県富山市立熊野小学校 深井美和(ふかい・みわ)先生
熊本県天草市立下浦第一小学校 上村孝直(うえむら・たかなお)先生 
 

前号で概要を説明したルーブリック。その本質はブレのない客観評価基準であると同時に、授業デザインの具現 化過程そのものでもあった。教師と子ども双方の目指すところを明確化し、思考の過程までもを明らかにしようとするルーブリックだが、いまだ事例の蓄積が少なく、その作成は容易でないと言われている。そんな中、あえてルーブリックを使った評価と授業デザインに取り組み続ける教師集団「ルーブリック研究会」のメンバーに、その動機とねらいについて伺った。

絶対評価時代の評価軸を求めて
(三宅貴久子先生)

三宅貴久子先生

三宅貴久子(みやけ・きくこ)先生
岡山県岡山市立津島小学校教諭。学校現場での実践と大学院での研究とを併行して進めながら、ルーブリックの作成と運用に関する理論と実践の双方の先端を走り続けている。

「私にとって、ルーブリックとの関わりは大学院で行っていた研究の延長線上にあった「評価感の転換」という問題意識から始まりました。ちょうど相対評価から絶対評価への移行が求められていた時期で、自分自身、新しい評価のあり方に納得できる尺度を求めていたんですね」

三宅先生は、学校現場での授業実践と併行して大学院での研究を行ってきた。それも研究のための研究ではなく、あくまで日々教室で生かすための成果を得るためだ。
出発点は評価感、評価軸にあったというルーブリックとの出会いも、ほどなくして別の角度からも授業に資する取り組みとして、さらに研究・実践を深めていくことになったという。

「ルー ブリックが評価の基軸になることはもちろんなんですが、それを作成することは「子どもたちに何を身に付けさせようとするのか」「それをどうやって身に付け させていくのか」を具体的・徹底的に問うことなんです。つまり授業をデザインすることそのものなんですね。そういう見方ができるようになってからは、より よい授業を実現するためのデザインプロセスとして、ルーブリック作成を一層重視するようになりました」と三宅先生。

積極的な公開授業、確かな実践力、そして子どもたちが手に入れる学びの深さで知られる三宅学級の授業は、ルーブリック作成の中で追求された授業デザインに裏打ちされていたのだ。

鍛え育てる授業デザインのために
(石井芳生先生)

石井芳生先生

石井芳生(いしい・よしき)先生
徳島県三好市立落合小学校教諭。6年前に目にしたという三宅学級の授業に大きな衝撃を受け、ルーブリック実践の道に足を踏み入れた。現在は社会科でのルーブリック実践に力を注いでいる。

「6年前、三宅学級の子どもたち(6年生)が、東京の子どもたちとテレビ会議で稲作環境をとりまく諸問題に ついて大人顔負けの激しい議論をしていました。今思えば、これが取り組みのきっかけですね。『どうすればあんな風に深く考える子どもたちを育てられるんだ ろう』って、真剣に悩みました。するとそこにはいい授業があり、そのための授業デザインがあり、そしてルーブリックがあった。ちょうど三宅先生が歩まれた 道を逆に歩んでいる感じでしょうか。この研究会に加えていただき、今ではようやく同じ方向を向いて歩いていけるようになってきたかな、とは思っているんで すが(笑)」

いまだ知見の蓄積が乏しいルーブリックに関する取り組み。そうした中で行われている公開研や数々の研究発表の重要性とその影響力が分かるエピソードだ。

「ルーブリックを使った取り組みは、子どもの活動に対する評価にあいまいさがなくなる反面、教師側には常に『何を』『いかにして』達成・実現に導くのかが問われる厳しさを実感しています。子どもたちと一緒に、教師自身が鍛えられるのがルーブリックなんじゃないでしょうか」

そう話す石井先生の笑顔には「悠々と苦しむ」といった風情が感じられた。