見える「評価」で授業が変わる! 〜ルーブリックで授業作り〜

第2回 私たちはなぜルーブリックに取り組むのか
座談会:ルーブリックの効果と課題
岡山県岡山市立津島小学校 三宅貴久子(みやけ・きくこ)先生
徳島県三好市立落合小学校 石井芳生(いしい・よしき)先生
富山県富山市立熊野小学校 深井美和(ふかい・みわ)先生
熊本県天草市立下浦第一小学校 上村孝直(うえむら・たかなお)先生 
 

成功体験を積み重ねられるよさ
(深井美和先生)

深井美和先生

深井美和(ふかい・みわ)
先生

富山県富山市立熊野小学校教諭。ルーブリック研究会は、自身にとって『考えざるを得ない状況』に追い込まれる場だという。自分が考えることを止めたら子どもの学びもそこで止まってしまう、という思いで実践に励んでいる。

「私もたぶん『巻き込まれ組』ですね(笑)。最初はルーブリック研究会の『陣中見舞い』のつもりだったんですけれど」という深井先生。

低学年の担任経験が多いこともあって、はたして低学年向けのルーブリックというものが作れるのか、必要なのか、という気持ちがあったという。

「と ころが、年々子どもたちの変化が気に掛かり始めました。とにかく失敗を恐れるので『挑戦しよう!』という気持ちが育たないんです。少子化の影響として言わ れることが多いですが、周囲の大人がつい先回りして『失敗させない』育て方になっているんでしょうね。個人的には、時には「失敗させてみる」指導も必要だ と思っていますが、それが受け入れられにくい風潮があると思います。そこで改めてルーブリックに目を向けてみると、達成目標を細かく明示することで、子ど もたちが段階的な成功体験を積み重ねていけるというよさに気付いたんです。小さいことかもしれないけれど『できた!』という喜びが子どもたちの力になるん ですよね」

「失敗をバネに」と同様の効果を、「小さな成功を糧に」できるルーブリックを通じて実現しようとしているのが深井先生のスタンスだ。

「見えるようにする」ことの意義
(上村孝直先生)

上村孝直先生

上村孝直
(うえむら・たかなお)先生
熊本県天草市立下浦第一小学校教諭。小規模校であるがゆえの課題を克服しつつ、そのよさを生かす方策としてのルーブリックの活用に取り組む。その中で、子どもたちと同様、自分やその授業が変わってきたことを実感しているという。

「私とルーブリックの出会いは、あるソフトウェアを通じてのことでした。『ルーブリックチャート』というソ フトウェア(※1)なのですが、それが子どもたちの学びを可視化する助けになってくれたと共に、私自身の指導・評価のあり方をも『見える』形にしてくれた んです。これは新鮮な体験でした」と上村先生。

見えないものが、見えないがゆえに尊いかのように扱われる。これはいかにも日本的な価値観だが、こと教育の場にあっては、そのような考え方が無為無策につながることもある。

「知 識や理解など、テストで『見えやすいもの』だけでなく、思考とその過程という『見えにくいもの』を見える形にすることで、子どもたち一人ひとりをしっかり 指導できると思うんです。まだまだ課題は多いですが、研究会の皆さんと助け合い、励まし合いながら、実践を重ねていきたいですね」

上村先生の勤務校(本誌23号で実践を紹介)は小規模校だが、それだけに手が届きすぎるきらいがあり、授業が「教え込み」的になりがちだったという。その結果「知識理解に比べ思考力が育ちにくいという問題を感じていた」と上村先生。小規模校のよさを発揮するためにも、子どもたち一人ひとりの学びと向き合えるルーブリックの有効性が生きる面があるに違いない。


 

※1:『ルーブリックチャート』
日本文教出版のホームページで配布されている評価支援ソフトウェア。
ルーブリックの作成と運用を簡易支援する。
(配布元URLはhttp://www.nichibun.net/classsupport/rubric/


ルーブリックへのいざない

黒上晴夫先生

黒上晴夫
(くろかみ・はるお)先生

関西大学総合情報学部教授。メディアを活用した授業デザインやカリキュラム開発、「学び」に関するシステムや評価法などについて実践的な研究を行っている。『総合的な学習のための評価への羅針盤』(日本文教出版)『教育改革のながれを読む─高次な思考力育成を目指して』(関西大学出版部)など、著書多数。

学校における子どもの評価が、相対評価から絶対評価へと変わる中で、学力を客 観的に測れるものに限定してとらえる傾向を助長する危険を感じます。興味・関心や思考力のような、客観的には測れないようなものも、ペーパーテストの結果 で絶対的に評価しようという動きがないとは言えません。ルーブリックは、そこで排除される恐れのある質的な学力をとらえて、それを高めるための手法です。 そして、それは単なる評価の道具なのではなく、何をどう頑張れば一歩前へ進むことができるのかを、子どもたちに示す道具でもあるのです。

そのためにルーブリックでは、C/B/A/Sの4段階で評価基準を示すことを勧めていますが、これによって子どもたちは、自分が次の段階に進むには何が 足りないのか、それを埋めるためにはどうすればいいのかが分かります。常に目の前に「手の届きそうな目標」があることが大切なのです。

そのように細分化された質的な評価基準、つまりは学習目標でもあり教授目標でもあるものを、具体的に言い表す作業は楽ではありません。言葉さがしの連続なのです。

しかし、今回集まっていただいた先生方が話されていたように、ある程度取り組みを蓄積すると、だんだん腹に落ちてきます。そして、その中で子どもの学び の質的な側面をとらえる視点が定まってきます。子どもも、学習の方向を自分で見通して、量や時間ではなく、質的に高い成果を出さなければならないと思うよ うになっていきます。この手応えを感じることが、また励みになるのですね。

当初は漠然としたアイデアだったこの取り組みが、研究会の先生方の努力で、だんだんと形になってきました。今後は、この取り組みに参加しようという先生 方の助けとなるような知見を提供していきたいと考えています。皆さんもどうぞこの輪に加わってください。簡単ではありませんが、授業改善に取り組む新しい 視点と、大きな成果を得られることでしょう。

 

取材/西尾真澄 撮影/西尾琢郎
※情報誌『Justsystem&School』24号掲載。
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。