見える「評価」で授業が変わる! 〜ルーブリックで授業作り〜

第2回 私たちはなぜルーブリックに取り組むのか
座談会:ルーブリックの効果と課題
岡山県岡山市立津島小学校 三宅貴久子(みやけ・きくこ)先生
徳島県三好市立落合小学校 石井芳生(いしい・よしき)先生
富山県富山市立熊野小学校 深井美和(ふかい・みわ)先生
熊本県天草市立下浦第一小学校 上村孝直(うえむら・たかなお)先生 
 

学びの責任

三宅貴久子先生

三宅──ルー ブリック、中でも実践ルーブリック(※2)は、子どもたちと一緒に作っていくものですよね。これには学びの目標を教師と子どもが共有するという意味があり ますけど、そこでは教える教師の責任と同時に、子どもたちにも「学びの責任」を担わせるという意味があるんですよ。厳しいようですが、それが結局、主体的 な学びにつながっていきます。

深井──主 体性と共有というお話ですが、以前、一度もSを取ったことのなかった子どもが、はじめて漢字の書き取りを2ページやってきたことがあったんです。ところが 残念なことにその漢字が間違っていたんですね。私は思わず「今回に限り、彼の頑張りにSをあげたいんだけどどうだろう」とクラスのみんなに問いかけまし た。話し合いの結果、結局これは基準を満たしていないということでルーブリック通りのB評価という結論になったんですが、自分たちへの評価基準を、こうし て子どもたち同士がとことん話し合えるようになったこと、そしてその結果を自ら引き受けるようになってくれたことは感慨深いものがありましたね。

石井芳生先生

石井──ルーブリックを導入すると、保護者からのとまどいの声もありますよね。わが子の活動がランク付け評価されるわけですから。

三宅──取り組みの履歴をしっかり取っておくことが大事ですよ。参観日などの機会にそれを見せれば、変化の跡がハッキリ分かりますから、納得が得やすいんです。

石井──そういう説明は、同僚や子どもたちにも効きますね。

深井──「みんなが頑張っているんだから、先生も通信簿、適当につけたりしないからね」って。子どもたちもそうかと納得してくれますしね。

苦労のち加速

深井美和先生三宅──「ルーブリック作りの難しさは、評価の基準を言葉で表現しなくてはならないことでしょうかね」

深井──「評 価語(※3)選びには、確かにいつも悩まされますよね。そういう意味では初任者には難しい部分もあるかもしれません。でも、3〜4年目にもなれば、自分で 取り組める部分はあると思います。若手だからこそ、こういうハッキリした物差しが役に立つというところもあるでしょうしね」

三宅──ベテランだろうと最初はやっぱり大変。でも、それを積み重ねていくと、自分の中にも、子どもの中にも過去の基準が蓄積されていって「ルーブリックを作るためのスキル」みたいなものが身に付いていく。そうなれば後はドンドン加速していくんですよ。

上村──それは「こう考えればいいのか」という思考のスタイルが身に付くことでもありますよね。

ルーブリックと向き不向き

上村孝直先生

石井───教科や単元の内容による、ルーブリック適用への向き不向きもありますね。大ざっぱに言うと、思考・表現系の教科に向いていると言えるのかな。最終的な成果物だけでなく、思考の過程を見ることに意味がありますからね。

三宅──知識理解系の教科は、もともと評価の尺度が見えやすいですし、そういったものはペーパーテストでいい部分もあるでしょうね。

石井──ルーブリックが有効なのは、教科ごとというよりは、やっぱり単元ごとなんでしょうね。考えさせたい単元についてピンポイントに使っていくのが現実的なんじゃないでしょうか。

深井──仕掛けや伏線がポイントになる授業だと、ルーブリックが事前の種明かしになってしまう場合もあるんですが、そういったことも含めて、ケースバイケースで考えていけばいいんですよね。

上村──こ の教科はルーブリック、これは違う、というのではなくて、柔軟に適不適を考えていくのはいいですね。私の場合はルーブリックを使うことで算数の授業が、子 どもにより考えさせるものに変わってきた気がします。教科についての固定観念を変える上でも、ルーブリックを柔軟に取り入れていきたいです。

石井──ルーブリックへの理解を広げて、取り組みを広めていくためにも、評価語の充実はもちろんですが、今後はサンプル、あるいは(これがAでこれがSといった)ベンチマークになるような学習成果例を蓄積していきたいですね。



※2:『実践ルーブリック』
ルーブリック研究会では、ルーブリックを「思考ルーブリック」「単元ルーブリック」「実践ルーブリック」の3種に区別している。それぞれ、学習を通じて身 に付けさせたい思考の検討、授業デザイン、子どもとの目標共有を担うルーブリックだ。詳しくは今後の本連載にて言及。

※3:『評価語』
ルーブリックのS/A/B/C、4段階の目標到達レベルを定義するための言葉。ブレのない評価を可能にするためには、評価語をいかに定めるかが大きなポイントとなる。

取材/西尾真澄 撮影/西尾琢郎
※情報誌『Justsystem&School』24号掲載。
本文中の情報は、すべて取材時のものです。