新学習指導要領 〜教育新動向〜
教科を越え、苦手意識を越え、
情報教育を解放せよ!
〜情報教育の技術科依存からの脱却を目指して〜
愛知県大府市立大府西中学校
ネット社会の安全への第一歩は社会に向けたアンテナ設置から
金城学院大学 助教授 長谷川元洋先生
ネット社会の 本質とは

長谷川元洋(はせがわ・もとひろ)先生
金城学院大学現代文化学部情報文化学科助教授。三重大学附属中学校の教諭時代に、ネット上での事案を扱う弁護士などとの出会いを通じて情報モラルやネット 社会での安全な暮らしの実現を目指す教育に関心を抱き、研究の道へと足を踏み入れた。子どものための実践に結びつく研究に注力している。
「研修の中でもお話しましたが、ネット社会だからといって、これまでの社会と隔絶した、まったく違うものではないわけです。そのことがまず大切ですね」
今、ネット社会で起きていることを特別視してはいけない。長谷川先生の出発点は、まずそこにある。
「特別視をしないことで、自分の中に持っている物差しを使うことができるようになります。とは言え、ネットがこれまでに大きな変化を社会にもたらしていることもまた事実です。けれどもそれはあくまでこれまでの社会の延長線上にあるものだと考えれば、自分の物差しもまた、持ち替えるのではなく、その丈を伸ばして使えばいいことが分かるんじゃないでしょうか」
長谷川先生のこうした考え方は、コンピュータやインターネットに苦手意識を持つ先生方にも大きな励ましとな
るのではないだろうか。
アンテナを
高くかかげて
「ネット社会を知る上で重要なのは、そのスピードだと思います。日進月歩という言葉が陳腐に思えるぐらいの変化の速さは、いまだにとどまることがありません。つまり、これで分かったと思ったことが、明日にはまた変化している可能性があるわけです。ですから、常に現在起きている出来事を見つめ続ける必要があります」
増える一方の校務に忙殺されがちな教員は、そうした情報収集について、ある意味で一般の社会人よりも不利な立場にあると言えるだろう。そのことを意識した上で、本や雑誌を読み、実際にネットに触れるなど、ごく当たり前に社会を知ろうとする姿勢を持ち続けることが必要だと長谷川先生は強調する。
「ネット社会での安全は、特別な知識や経験以前に、健全な社会常識と新鮮な社会知識を持ち合わせていることが必要です。先生方には、もっともっと社会に向けたアンテナを高くしていただきたいと思っています」
知識と関心の輪を
現在、子どもたちをとりまく状況は、大人の目の届かないところで日々激変しつつある。しかしそれは「見えない」こと以上に、上記のように「見ようとしてこなかった」ことの結果であったと言えないだろうか。
「だからこそ、まずは現状を知ってほしいと事あるごとにお願いしています。教員だけでなく、保護者、地域社会が、ネット社会の危険やモラルに関心と知識を持ち、互いに協力し合う好循環の輪を作ることが大切なんです」
こうした理念自体は合意を得やすいものだが、その実践には困難を伴うことも多い。出席者の少なさに悩まされる保護者向け説明会については、進路説明会と併催するなど、少しでも多くの参加を促すことのできる環境選び・環境作りも重要になってくるだろう、と長谷川先生。
決してたやすい取り組みではないが、子どもたちの置かれた状況を見れば、それが待ったなしの課題であることは明らかだ。
「社会道徳や交通安全とまったく同じレベルで、社会全体がこの問題について考えなくてはならないと思っています。現場の先生方にも、ぜひ手を取りあって一緒に取り組んでいただきたいですね」
名古屋市の南に隣接する大府市は、名古屋圏で働く人のベッドタウンであると同時に、地元で近郊農業や自動車産業に従事する人もまた多い地域だ。大府西中学校では、こうした多様性を持つ地域にあって、柔軟な適応力を持った生徒の育成に力を入れている。二宮立美(にのみや・たつみ)校長、生徒数441名。
取材/西尾琢郎 撮影/齋藤浩(スタジオエイブル)