新学習指導要領 〜教育新動向〜

教科を越え、苦手意識を越え、 情報教育を解放せよ!
〜情報教育の技術科依存からの脱却を目指して〜
愛知県大府市立大府西中学校

愛知県大府市立大府西中学校今日、小学校での情報教育の幅広い進展に比べて、中学校でのそれは、縦割り教科担任制の中で、技術科のみに集中・依存している感が否めない。情報教育が「技能」から「態度」「活用力」へと広がっていく中、こうした教科の壁を克服し、すべての教科で情報教育を推進する必要が叫ばれつつある。

教科の壁と
情報教育

放課後のコンピュータ室を舞台にした校内研修の様子

放課後のコンピュータ室を舞台にした校内研修の様子。大府西中では、幅広い分野の外部講師を招いての校内研修に力を入れている。先生方の「アンテナ」を高く、敏感にするための取り組みの一環だ。

「私はね、基本的にすべての教科で、情報教育的な視点を取り入れてほしいと思ってるんです」

開口一番、こう切り出したのは、大府西中の二宮校長先生だ。

もともと理科が専門で、大学卒業後にコンピュータの研修を受け、多変量解析などデータ処理に活用してきたという先生だけに、パソコンに精通していることはもちろん、それが社会でどういった意味を持ちつつあるかについても、常に目を光らせてきた。

「インターネット以前の時代であれば、それはいわゆるIT機器の操作技能ということでよかったのでしょう。ですが今、コンピュータネットワークは社会の基幹になりつつあります。同時に、それを通じて行われる情報収集や情報交換は、社会生活を送る上で欠かせないものになってきました。つまり物の見方考え方の全般にわたって、こうしたメディアの存在を前提にする必要があるわけです」

コンピュータが学校現場に入り込み始めた時期と今日とでは、その社会での位置づけはまったく違ったものになっている、それが二宮先生の見解だ。

「にもかかわらず、中学では教科ごとに担当する先生が違うという制度がいわば壁になって、今でもコンピュータや情報についての学びが技術科に閉じこめられがちなんですね。これではいけない」

そう語る二宮先生の口調は、危機感に満ちたものだった。

あらゆる機会を
生かして

二宮先生が主導する取り組みは教科の壁だけでなく、学校内外の境すら越えて広がる

二宮先生が主導する取り組みは教科の壁だけでなく、学校内外の境すら越えて広がる。隣接する幼稚園との連携による保育実習や、地域の人たちを講師として招く学校保健委員会の開催など、地域ぐるみでの教育力強化にも余念がない。

教科の壁を越え、情報教育を技術科だけのものから解放する。二宮先生の願いは単なる思いにとどまらず、さまざまな実践として展開されつつある。

取材に伺ったこの日には、金城学院大学の長谷川元洋(はせがわ・もとひろ)助教授を招いての校内研修が実施された。そのテーマは「中学生のネットトラブルの現状と全校で取り組む情報モラル指導」だ。

コンピュータが特別なものでなくなり、日常生活に溶け込んだ道具になるにつれ、それを使う上でのモラル、そして安全に活用するためのセキュリティ教育がその重要性を増している。そしてそれは同時に、コンピュータという「モノ」を扱う技能を越えて、表現やコミュニケーションを含む情報、そして思考活動の全般にわたる広がりを持つようになっているといえるだろう。

こうした現状をすべての教員が共通認識として把握し、その認識の上に立って取り組むべき課題や講じるべき対策、指導について考えるひとつの機会として位置づけられたのがこの日の研修だ。

「先生方には、授業や学校生活のあらゆる場面で、情報教育的な視点を意識した指導を行ってもらいたいと思っています。そのための支援は惜しまないつもりです」と二宮先生が話すとおり、長谷川先生が講師を務めるのもこの日が2度目。その他にも消費生活センター職員を講師に招いての研修など、積極的かつ継続的な取り組みの様子がうかがい知れる。

二宮立美校長先生二宮立美(にのみや・たつみ)先生

校長として情報教育担当の先生を支援するというスタンスからさらに踏み込み、自ら積極的に教科の壁を越えた情報教育の展開を目指している。パソコン普及以前からコンピュータに触れてきた長年の経験や専門性に拘泥せず、現代社会の中での情報活用のあり方について語る言葉は重い。