教育”新”動向

学習者レスポンス活用の試み 
東洋英和女学院大学教授  塚本榮一(つかもと・えいいち)先生
熊本市立飽田東小学校教諭 前田康裕(まえだ・やすひろ)先生
岡山市立津島小学校教諭  三宅貴久子(みやけ・きくこ)先生
熊本市立健軍東小学校教諭 菅 建二(かん・けんじ)先生

ノート指導を通じて伸ばす
「書く力」──菅先生

私は現在、少人数指導担当として、高学年の算数の授業のみを受け持っています。これまで算数といえば問題が解けたか解けないかということが中心で、「書く」という活動があまり重視されてきませんでした。ところが現行の指導要領では、見通しを立てることや、いろいろな考え方を比較すること、そして問題解決能力の重要性が強調されています。これらは読み書きの力と密接に関係しているんですね。

本校では、5年前、モデル校として少人数習熟度別学習を試行することになったのですが、原則としてコース決定を子どもの自己選択で行おうとしました。と ころが子どもたちは自分でコースを選べないんです。そこで、自己評価の積み重ねにより、子どもたちのメタ認知の育成を図ろうということになったのです。

もちろん、三宅先生のお話にもあったように、子どもたちが授業の目標を理解していないことには自己評価はできません。そこで授業計画の文言を子どもたちと一緒に「自分たちが分かることば」に書き直していく作業を始めました。自分たちが理解できる目標ができあがったことで、自己評価が具体的になっていったことも、お二人のお話の通りです。

こうした自己評価を見ていきますと、やはり、良くできる子ほど塚本先生の言う「非合理の基軸」が際立っていると感じます。例えば平行と垂直の学習に関連して「家の中でも垂直や平行を調べてみたい」といった反応です。こうした例を学級内でもしっかり取り上げてほめることで、他の子どもたちにもよい影響が生まれていると感じますね。

書くということについて、私がもうひとつ取り組んでいるのがノート指導です。授業では手を挙げる発表も大切ですが、それでは全員を指名することは難しい。そこで思い切って子どもたちにこう宣言しました。「ノートを成績として評価します。ただし、いいところしか見ません。だから考えたことをどんどんノートに発表してください」と言ったんです。

これで、子どもたち全員それぞれの思いやつまずきなどに目が届くようになりました。また、継続することによって、子どもたちが授業に集中するようになり ますし、自分のノートを本当に大切にするようになります。

ゴールの見える授業と
学習者のレディネス──塚本先生

今日は本当に有意義なお話をうかがうことができました。皆さんそろって指摘されていた授業の目標の明確化とその重要性についてのお話が、とても強く印象に残りました。

私もこれまでの研究の中で、学生のより本音に近い発話を引き出すためには、よい発問が必要だろうという仮説を持っていましたが、先生方のお話で、その延長線上に、目標を明示した授業のあり方というものがあり、またそれによって学習者の「レディネス(構え)」を用意することができることが明らかになってきたように思います。こうした良い「構え」が、学習効率を高め、授業を改善していくために有効なことは間違いないでしょうね。

本日は本当にどうもありがとうございました。

塚本先生 前田先生 三宅先生 菅先生

「多忙な学校現場で、個々の学習者のレスポンスを受け止め、吟味していくのは大変なことです。先生方は情熱でそれをこなしておいでですが、その取り組みを広げていくためにも、レスポンス解析を手助けできるソリューションの開発を進めたいですね」

「評価の指標を作ることは、評価者自身が評価されることでもあります。なぜそう評価したのかが問われるわけです。自分のやり方がこれでよいのか問う意味でも、続けていきたい取り組みですね」

「私の指導は、かなり子どもを追い込みます。ダメなものをダメと言い、できるまで帰さない。そこで子どもの真剣さが変わってきます。ダメ出しのし過ぎは逆効果になるので要注意ですけれど」

「子どもの自己評価に取り組み始めたころに失敗したのは、子どもたちが教師の期待はどこにあるのかを探りながら書くようになってしまったことです。子どもたちを自分自身と向き合わせる指導の重要性を痛感しました」

塚本榮一先生

前田康裕先生

三宅貴久子先生

菅 建二先生

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インタビュー名人になろう 
評価基準表  自己評価カード
:前田 康裕先生作成
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算数科 基ルーブリック(案)
:菅 建二先生作成
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6年「立体」単元ルーブリック
:菅 建二先生作成
 一太郎2005形式(49KB)
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