新学習指導要領 〜教育新動向〜

ワークショップ研修でALTとJTEの意識共有を 
〜ALTの役割を意味付け、価値付ける〜山口県長門市立深川中学校

授業における
ALTのかかわり

プレゼンするALTの先生方

プレゼンするニック先生(上)マギー先生(中)クリスタル先生(下)。

6時間目の授業を終えたJTEの先生方が合流したところで、ALTのプレゼン開始。JTEの先生方は、少々緊張した面持ちだ。

プレゼンでは、トム先生の授業について「生徒の気持ちを途切れさせないよう、工夫された授業だった」「細かな問題にも丁寧に対応していた」「トム先生が日本語を一切使わないことで、生徒たちの聞き取り能力向上につながる」「作業時間を区切ることで、生徒たちにほどよい緊張感を与えていた」「高管先生との連携により、授業が良い流れになっていた」「授業の内容として、生徒たちの創造力と想像力が鍛えられた」などと分析し、一方で、「生徒たちが聞き取りやすいように、もっとゆっくり話した方が良いのでは」「すべての生徒に確実に理解させるための工夫をすべき」といった改善点も上げられた。

そのプレゼンを受けて、20分間のフリートーク。授業におけるALTのかかわり方や役割について、ALTとJTEとで活発な議論がなされた。授業デザインの仕方や、事前の打ち合わせ方法について、またALTがどのように授業をアシストすべきか、JTEはALTにどのようにアシストしてほしいかなど、それぞれが意見を述べ合った。当然ながらJTEも全員が英語で応じたため、ALTも自らの価値付けを容易に行えたようだ。  

学校生活全般での
ALTのかかわり

JTEの先生方も熱心に聞き入る

時にうなずき、時にメモを取り。JTEの先生方も熱心に聞き入る。

フリートークを終えたところで、藤本先生は研修参加の先生方に付せん紙を配り始めた。ALTには緑色、JTEには青色の付せん紙をそれぞれ10枚ずつ。机の上にはあらかじめ学校生活のタイムスケジュール表が用意されている。
「授業時間に限らず、ALTが勤務時間内にできること、またALTにしてほしいことを付せんに書いて、スケジュール表の関連ある部分に貼ってください」
藤本先生の指示により、瞬く間に文字で埋められ、スケジュール表に貼られていく付せん紙。
ALTが書いた緑色の付せん紙には、
「スポーツの大会や公演会など、ALTにも特別な行事を知らせてください」
「提案することを恐れないでください。3人よれば文殊の知恵です」

 

フリートークで自分の思いを伝えるALTとそれを受け止めるJTE

フリートークで自分の思いを伝えるALTと、それを受け止めるJTE。相手を否定せず、お互いに尊重した中で理解が深まる。

「授業以外の学校生活において、どう溶け込んでいけばいいのか、方法を示してください。きっかけをつかめれば、私たちの方法でもっと溶け込めるはずです」
「JTEのみなさんは英語で話すべきです! 英語を聴かなければ、生徒たちはリスニングが不得意になってしまいます。また、JTEがALTに授業プランを話してくれなければ、進行の手助けが困難になります」
といった意見が。JTEが書いた青色の付せん紙には、
「生徒たちはALTについてもっと知りたがっています!」
「ALTも日本語を学んでください。そうすれば、生徒たちともっと交流が進むでしょう」
「私たちに英語を教えてください!」
「掃除の時間やクラブ活動の際に、生徒たちともっと話をしてあげてください。生徒たちはALTの先生方と話をしたがっていますが、いかんせん、彼らはとても恥ずかしがりなのです」
といった意見が書き込まれていた。

ALTの役割を意味付け
その存在を価値付ける

ワークショップ風景

ワークショップを終えたところで、最後にトム先生から「コミュニケーションノートの有効性」についての意見提示が行われた。

「私たちALTと交流したいと思っていても、話すことが苦手な生徒には難しい。そこで、彼らのノートを活用してはどうでしょうか。無口な生徒でも、ノートでは饒舌なことが多いのです。また、ノートによるコミュニケーションは、ALTにとっても、広範囲にわたる知識やアイデアを生徒たちと共有するチャンスを与えてくれるのです。ノートでの交流が深まることで、ALTは生徒たち一人ひとりに対する理解を深めることができ、生徒たちも打ち解けてくれる。授業もより良いものになるはずです」

ノート交流法についてのポイントをまとめたプリントが配られたところで、研修会は終了。プレゼンの段階では張り詰めていた空気も、次第にほぐれ、研修会を終えるころにはALTとJTEが笑顔で歓談する姿も見られた。

「ALTがJTEに思いの丈を伝えられたこと、これが何よりの収穫でした」
と藤本先生。

「ALTが思いを伝える場、機会を作れたことが大きいと思うんですよ。しかも、不平不満の噴出で終わらずに、ポジティブな意見を交わすことができた。お互いを否定せず、尊重することで、言葉や文化を越えられる。ある意味、今日がスタートですね」

藤本先生は、さらに3回、4回と研修会を続けていきたいと語る。

「こういった研修会で、ALTの必要性をALT自身に認識させてあげることが大事だと思っています。彼らの役割を意味付け、価値付けてあげることで、ALT自身がそれを自覚し、意欲を持って授業に取り組める。それがJTEや生徒たちにも伝わることで、好循環の輪ができる」

ALTとJTEが共に学び、意識を共有し、互いに向上する場としての研修会。前例のない取り組みだけに、今後も注目していきたい。

今日の研修の流れ

藤本先生

藤本義彦 (ふじもと・よしひこ)先生

長門市教育委員会 学校教育課 指導主事。平成16年度までは小学校の教諭で、翌年度から現職。「私たちは何のために来たのか」と問うALTに、「生徒らはあなた方の生き様を見ているのだ」と応じる。


◆山口県長門市立深川中学校

本・分校が統合し、平成18年度より新たなスタートを切った深川中。「確かな学力」を育てるべく、教師の授業力の向上を目指している。メリハリのある授業、教材開発、授業評価、基礎基本の習熟など、授業改善へと積極的に取り組む。生徒数384名。森田和康(もりた・かずやす)校長。

取材/西尾真澄 撮影/西尾琢郎

※本文中の情報は、すべて取材時のものです。