新学習指導要領 〜教育新動向〜

ワークショップ研修でALTとJTEの意識共有を 
〜ALTの役割を意味付け、価値付ける〜山口県長門市立深川中学校

生きた英語を教えるため、ALT(=Assistant Language Teacher)が導入されて、はや十数年。しかし生徒たちにとって、そして先生方にとって、本当の意味でのAssistantとなり得ているのだろうか。ALTとJTE(=Japanese Teacher of English)とが意識を共有し、ともに学び、向上する場を設けるに至った深川中の、その実際の研修会にお邪魔し、ALT、JTEそれぞれの「思い」に触れた。

研修会の前に
まずは授業参観

教壇に立つトム先生

教壇に立つトム先生。緩急をつけた話し方で、生徒たちを巧みに英語の世界へと引き込んでいく。ALTの先生方は、自らのステップアップのためにその職を選んでいる人が多いという。

3年4組、英語の授業。教壇に立つのはALTのトム先生だ。JTEの高管先生は生徒の側に立ち、今日はアシスタント的役割を担う。

黒板にはすでに「Mr Takasuga and Tom teach twice together on Tuesdays.」と書かれている。各単語の先頭にある「t」の文字を、あえて色を変えて表記しているところがポイントだ。

続いてトム先生は、「alliteration」と大きく板書し、発音する。繰り返す生徒たち。すぐには意味がつかめない単語だ。LとRの発音も難しい。

しかし、トム先生は一切日本語で解説することはしない。先の例文を指さし、それがどんな意味なのかを生徒に体感させるのだ。

訳せば「頭韻法」ということになるだろうか。トム先生は生徒たちを2人ずつペアにさせ、「Shiori」で始まり「s」のつく単語をできるだけ多く入れた文章を3分で作るよう指示。もちろんすべて英語で、だ。

この授業は、我々取材陣以外に、3人のALT、クリスタル先生、マギー先生、ニック先生も参観している。3人はトム先生の授業に、生徒たち同様に真剣に聞き入っている。メモを取るペンも盛んに走る。お互いに授業を見る機会は少ないとのことで、かなり刺激的なようだ。

すべて英語のトム先生と
日本語でフォローの高管先生

生徒たちの反応を見ながら日本語でフォローする高菅先生

今日は高管先生がアシスタント。生徒たちの反応を見ながら日本語でフォローする。

文章作りがスタートすると、高管先生は生徒たちの間を細かく見て回り、フォロー。なかなか単語が思い浮かばない生徒や、単語は浮かんでも文法的につなぐことができない生徒に対して、日本語での解説を行っている。

参観しているALTも、生徒たちの文章を見て回ってアドバイス。単語のつづりに迷っていた生徒も、アドバイスを受けて納得の表情。

「Shiori and Sae study science on Sunday」
「Shiori says she sings 6 songs every Sunday in summer」

など、生徒たちはさまざまな「s」を並べて文章を作り上げた。12個もの「s」を並べた生徒が最多賞。どよめきとともに拍手が起こった。

この「alliteration game」は、あくまでもウォームアップ。続いては、「place」「people」「time」「object」「activity」を並べて、子どものころの思い出を文章にするという課題だ。

最初に思い出に関する単語を書き出し、続いて、ペアとなった相手がそれらの単語を元にして想像の思い出をつづり、最後に本当はこうだったという正解を提示するというもの。ワークシートには「family」「summer」「fishing」などトム先生と高管先生の思い出のかけらが5つずつプリントされており、記入の際のヒントとなっている。生徒たちがワークシートに向かう前に語られるトム先生と高管先生の思い出話もまた、文章を構成する手助けになる。

 

参観しているALTもアドバイスにまわる

参観しているALTもアドバイスに回る。当然ながらすべて英語でのアドバイスだ。

記された単語を手掛かりに、当人の思い出にかなり近い文章を作成した生徒もいれば、まったく見当違いの思い出を創造した生徒もいて、教室内はしばしば笑いに包まれた。

JTEと意識を共有したい!
ALTの強い願い

自らの授業を振り返るトム先生

自らの授業を振り返るトム先生。机には油性のマーカーを使うことを念頭にあらかじめ新聞紙が敷かれている。そうした準備も藤本先生の仕事だ。

授業終了後、長門市教育委員会の藤本義彦先生の主催で、いよいよ第2回ALT研修会開始だ。最初の1時間は、トム先生と授業を参観したALT、合わせて4名でのワークショップ。ここでまず、先ほどのトム先生の授業についての意見や感想をまとめたプレゼンシートを作成することになっている。続いての1時間はJTEも合流し、ALTがJTEに対してプレゼンを行った後、授業、そして学校生活におけるALTのかかわり方や役割について話し合う、という流れだ。

そもそも、なぜこのような研修会を開くに至ったのか、藤本先生に伺った。
「ALTの方々は、みなさんいろいろな悩みを抱えていらっしゃいます。そこで、JTEとの連携やALTとしての役割について再認識していただければと思い、昨年11月に第1回のALT研修会を行いました。第1回はマギー先生の授業参観をし、その後でALTのみを集めて研修を行ったのですが、その時に課題として持ち上がったのが『授業をJTEとどのようにシェアしていくか』『授業外で自分たちがサポートできることは何か』ということでした。そして何より『JTEともっと意識を共有したい。話し合いたい』ということだったんですね」

JTEと意識を共有し、より良い授業を。授業外でも積極的にかかわり、サポートしたい。ALTの先生方のそんな思いをJTEに伝え、話し合う場として、今日、第2回目の研修が組まれたという。

ポジティブな意見が連なる
プレゼンシート

ワークショップ(1)の様子

ワークショップ(1)の様子。授業中のメモを見ながら、付せん紙に感想や意見を書き込み、シートに貼りつけていく。付せん紙は「positive」方向に集中。まさにポジティブシンキングの見本のようなシートだ。付せん紙から模造紙へ、全員が積極的にかかわり、作業も早い。

トム先生が今日の授業の振り返りを述べたのち、トム先生とクリスタル先生、マギー先生とニック先生がそれぞれ2人1組となってワークショップ開始。まずはトム先生の授業を見て感じたことを各人が付せん紙に記入し、縦軸に「positive←→negative」横軸に「leading role←→assisting role」を配したシートに貼りつけていく。反省点ばかり見いだしてしまいそうになる日本人のそうしたワークショップと違い、ほとんどの付せん紙が「positive」の側に貼りつけられているのが印象的だ。

次は、仕分けられた付せん紙を元にして、模造紙をプレゼンシートに仕立て上げる作業。ALTの4人はまったく臆することなくどんどん書き込み、あっと言う間にプレゼンシートを完成させた。

「彼らはこうした作業にとても慣れているのです」と藤本先生。書き間違えた部分も塗りつぶしてしゃれた模様に替えるなど、素早い機転も光った。