中学・高校の実践事例

基礎学習と実践を土台にした実りある表現を目指して 
〜体験が肉付け、道具が伸ばす、好奇心と可能性〜 青森県・八戸市立白銀中学校

白銀中学校

東北新幹線の延伸により、首都圏と直結されて1年を経過した青森県八戸市。現在、同市では、総合教育センターが先頭に立って、全市に渡る情報教育環境の整備を推し進めている。その中で数多くの委託研究を実践してきた白銀中学校の授業にお邪魔させていただいた。

開かれた場を目指して

東北新幹線八戸駅に降り立った私たちが、まず向かったのは、八戸市総合教育センターだ。
同センターでは、市内の各校に対する様々な支援を行っているが、とりわけ、情報教育については、市内の公立学校を結ぶ 「教育情報ネットワークシステム」の整備に注力する一方、それをすべての教員が使いこなせるようにすることを目的にした研修の実施を進めている。

白銀中のパソコン教室

このネットワークシステムでは、教育センターのサーバ上に、各学校での実践に役立つコンテンツを蓄積し、それを各学校から自由に引き出して使えるシステムの構築を目指している。
  また、アプリケーションについてもネットワーク配信型で利用できるものを積極的に採用し、市としてのトータルコストを下げつつ、普及のペースを上げる配慮を行っている。

他の多くの自治体と同様、厳しい予算事情の中、同市では、まず、ネットワークインフラの整備を最優先して進める選択を行った。その結果、現在までに、小中65校のうち47校に100M光ファイバーの接続を終え、2004年度には残る18校にも同様の環境が整う予定だという。

一方の端末配備についても、一般教室への配備を重視し、優先的に進めていくのが市の方針。
これは、コンピュータを特別な授業のためだけの道具ではなく、黒板代わり、チョーク代わりの日常的な道具として、どの教科の、どんな場面でも使いこなしてほしいというポリシーに基づくものだ。

センター指導主事の戸来先生に、現状の課題と、今後に向けた取り組みについてお話を伺った。

「課題としては、市内の教員のコンピュータリテラシーの向上があげられます。文部科学省が実施しているアンケートの結果を見ても、残念ながら八戸市の先生方はコンピュータがあまり得意ではないという結果が出ているのです。そこで、センターでは、市内の全教員を対象にした研修を実施すると共に、こうした施設にありがちな敷居の高さを極力なくすことに腐心しています。研修とは関係なく、先生方が学校帰りにここに立ち寄って、情報交換や機器利用をしたり、教材研究をしたり、私たちスタッフに相談を持ちかけられる、そんな環境作りを目指しているんですよ」

戸来先生(左)と嘉瀬先生(右)

戸来先生ご自身が、現場の教員であった際に感じていた、こうした施設の 「敷居の高さ」など、実感に基づいたセンター運営は、今、軌道に乗りつつあるようだ。

そしてもうひとつ、センターで力を入れているのが、ITアドバイザーの活用だ。5名のアドバイザーは、市内65校のうち、それぞれ13校を担当。各校の要請に基づいて、およそ2週間に1回は各校に赴き、各種の支援を行っているが、それは単なる要員派遣ではない。

「アドバイザーたちは、毎朝、私たちと一緒にこのセンターで朝のミーティングを行います。その席で、各校での実践事例や課題などを報告してもらっています。そうした要素を随時吸い上げ、センターを通じて他校にフィードバックするという、重要な役割を担っているのです」と戸来先生。

このように、センターからの一方通行でなく、循環し、成長していく支援の実践が印象的だった。

学習と実践の上で

そんなセンターの取り組みの、ひとつの結晶が白銀中学校だ。3年間に渡る委託研究の実践は、地域の中でも高いレベルの充実した設備と共に、それ以上に重要な各種ノウハウを白銀中にもたらした。

1年選択理科授業を受ける生徒たち

そんな白銀中で、今回取材させていただいたのは、1年生の選択理科の授業だった。

授業のテーマは 「自分が選んだ植物についての調べと発表」。生徒たちは、1学期の必修理科で植物についての基礎知識を学んだ上で、総合的な学習の時間を利用した農業体験を行っている。

この選択理科では、それらの学習や実践を下敷きに、自分なりに興味を持った植物について調べ、それを「はっぴょう名人Teen's」を使い、資料にまとめて発表しようというものだ。

白銀中では、選択授業を学期末に集中的に実施するという特徴的なカリキュラムを組んでいる。選択授業はコマ数が少なく、週に1コマなど、限られた時数で実施しなければならないため、その日が学校行事などとぶつかった際には大きなブランクができてしまい、授業の効率が上がらないという判断によるものだ。
 各学期末に、集中的に選択授業を実施することで、こうした問題を回避できるばかりでなく、それまでの間に行った必修授業などの成果を下敷きに、より突っ込んだ内容の授業が行えるというメリットがあるという。

すでにここまでに数時間をかけ、調べと資料作りを進めてきているだけに、どの生徒のモニターにも、各々の作品が思い思いの姿を見せているようだ。始業の挨拶が終わると、中嶋先生の声がかかる。

「さて、今日もプロジェクターを用意してあります。今までまだ1回も、自分の作品を確かめていない人、いるかな?」
数名の手が上がった。それにしても 「確かめる」とは?
「それじゃあ、どんどん前に出てきて確かめながら、全員作業をさらに進めてください」と先生。

プロジェクターで確認

早速全員がキーボードに向かうと共に、何人かの生徒が立ち上がった。コンピュータ室の最前列にある1台のパソコンにはプロジェクターが接続されている。生徒は、そのパソコンの前に座り、ネットワークから、自分が先ほどまで作業していたパソコンを手際よく探し出し 「はっぴょう名人Teen's」 で自分の発表資料を開く。

開いた資料は、同時にプロジェクターでスクリーンに大写しされた。
「ねえ、ここの文字って小さくない?」
「ううん。ちゃんと見えてるよ」
近くに座る生徒と、自分の資料について意見を交わしている。

なるほど、 「確かめる」というのは、最終的な発表に使うプロジェクターの画面で、自分の資料の仕上がり具合を確認することだったのだ。

生徒たちの選んだテーマは、実にさまざま。
テーマを決めたのが農業体験に出かける前だったことから、必ずしも体験内容とリンクしているわけではないものの、 「あらかじめテーマを持って農業体験に出かけたことで、漫然と体験の時間を過ごすのではなく、自分なりの視点や疑問点を持って体験に臨めた子どもも多かったようです」と中嶋先生。
 農業体験から帰ってきてからも、疑問点などを体験宿泊先の農家の方に尋ねる電話をかけていた生徒もいたのだということだ。

授業の中でも、生徒たちは資料の作成過程で出てきた疑問について、その都度インターネットの検索サイトを利用して調べたり、疑問点として書き取ったりしていた。資料づくりそのものもさることながら、植物というテーマについての理解を深めることが大切だという、理科ならではの授業のあり方が実践されているのだ。