中学・高校の実践事例

『はっぴょう名人 Teen's』を活用した 「私の将来」プレゼンテーション 
〜動機を見失わせない、依存から工夫への導き〜 沖縄県・私立沖縄尚学高校

トラブル発生! 臨機応変の対処が新しい体験を生む

意見交換をしながら進めていく

いよいよ各人のプレゼン資料作成のスタートだ。共有のファイルサーバーに保存されている各人の『はっぴょう名人 Teen's』のファイルを、各々のコンピュータのデスクトップにコピーして、作業をはじめる。……と、ここでトラブル発生。

整備されたばかりの新しいコンピュータ室で、一部のコンピュータに不具合があったのだ。すぐさま修復が試みられるものの、残念ながら授業時間内の復旧は難しい状況。ピンチだ。

「調子の悪いパソコンを使っていた生徒は、他の人の作業に加わって、意見交換をしながら一緒に作業を進めてください」

上野先生はすかさず、この小さな混乱をプラスに転じるべく指示を出す。共同作業による 「教え合い」を狙った臨機応変の対応だ。浮き足立っていた生徒たちも、落ち着きを取り戻し、教室内には1台のモニターを数人でのぞき込む、いくつもの小さな輪が作られていった。

残されたわずかの授業時間の中で、生徒たちの作業が進められていく。

「この効果音、この説明と合うかなぁ」 「うーん。ちょっと派手なんじゃない?」
「こういう説明で、私の気持ち、分かる?」 「もう少し、理由について書いた方がいいんじゃないかな」

 

先生からの的確なアドバイス

盛んにクラスメイトと意見を交わす生徒、テンプレートを活用して、どんどん文字入力を進めていく生徒、見栄えにこだわって、背景や文字装飾に熱中する生徒、そのこだわりはさまざまだ。先生からは、その実際の作業の中で生徒から出てきた疑問に答える形で、技術的なアドバイスが行われていく。求めに応じて与えられる知識ゆえに、生徒たちの理解も迅速だ。

『はっぴょう名人Teen's』 は、表現上の特殊効果などを、基本的なものだけに絞り込んでいるが、そのことが、むしろ生徒を 「自分の訴えたいこと」と向き合わせ、そのための表現方法を工夫することを考えさせることにつながると上野先生は言う。

一方、資料の作成を進める傍ら、インターネットで検索エンジンなどを駆使して、自分の進みたい進路の情報の収集を行っている生徒もいた。これもまた、授業の狙い通りと言えるだろう。

向上と成長に終わりはない

真剣に取り組む子どもたち

ほどなくして、授業終了を告げるチャイムが響いた。授業の冒頭、生徒たちに返された作文は、学級担任にも渡され、進路指導の参考にしてもらうほか、発表の際にも、可能な限り担任に見てもらうなど、進路指導との連携が図られている。

また、名古屋、北海道、台湾の学校と、進路についての共同学習を行う計画もあり、相手校の呼びかけがあれば、いつでも進路についての発表ができるよう準備を整えていくという。

今後の授業ではこの資料を完成させ、プレゼンが行われる予定だ。その後、 「プレゼンの作り」 「プレゼンの内容」 「話し方、態度」の3点を各5点の15点満点で生徒同士が評価し合うことになっており、さらには校内プレゼンコンテストが予定されているという。

Plan-Do-See(計画-実施-評価)という、改善と向上のためのプロセスが、ここにはあると感じさせられた。生徒たちはこの授業を通じて、単なるパソコンやソフトの操作法にとどまらない、ものの考え方や進め方、それをよりよくしていくための手法を身に付けていくことだろう。

発想力や実践力は 「スピード」の上に育つ
沖縄尚学高校副校長 名城政一郎先生

 

副校長・名城政一郎先生

本校への本格的な情報教育の導入は、私が米国の提携校を訪問した際に、学生たちが実に当たり前のようにパソコンを使いこなしているのを見てショックを受けたことから始まりました。米国主導のグローバル化が進む現在、英語だけでなく、キーボードを操ることにまでハンデを背負っては、子どもたちがこれからの世界での競争に勝ち残っていくことはできないと感じたからです。

本校では、入学初期の段階で、基本的なスキルの習得を徹底して行います。情報教育でスキルの重視をうたうことは、ともすれば技術偏重という誤解を受けやすいのですが、ITの恩恵を発想力や実践力に活かそうと思うなら、まずはそれを思い通りに操れることが必要だと思います。それによって余裕が生まれ、その余力を発想や実践にあてることができるのではないでしょうか。

情報教育そのものではありませんが、本校で中学1年生に対して行っている速読(速脳)トレーニングも、同様の考えに基づいています。これはパソコンソフトを使った、速読法のトレーニングなのですが、このトレーニングによって、ほとんどの生徒が、トレーニング前の最低2倍の速さで文章を理解することができるようになります。その速さが生み出した余裕を、試験であれば問題を解くことにあてることができますし、それ以外でも、考えることや発想することに活かせるはずですね。

また、本校では全校で無線LANの利用を可能にしています。つまり、校舎内のどこでも情報の送受ができるのです。これも、パソコン利用をストレスなく行える環境を作ることにより、パソコンを使って何を実現するか、という部分に力を注げるようにするためなのです。

 

みんな、「将来の夢」が少しずつ描けてきた!
◆私立沖縄尚学高校

野球部の甲子園での活躍など、スポーツ名門校のイメージが強いが、沖縄県内で屈指の進学校でもある文武両道の中高一貫校。海外年間留学などの他、情報教育についても充実した設備と授業内容を誇っている。会員制のクローズドネットワークである 「尚学グローバルネット」があり、保護者向けの情報発信などはこの中で行われ、一般向けのホームページとは区別されている。生徒数1,139名。

取材・文/西尾琢郎 撮影/小橋川哲
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。