小学校の実践事例

いつもそこにある情報教育 
〜学校の日常に根を下ろした取り組みのしなやかさ〜 千葉県・松戸市立中部小学校

中部小学校校舎コンピュータの活用や情報教育は、今や特別なことではない。そう言われていながらも、実際にはその取り組みが、総合的な学習の時間やコンピュータ室といった枠組みから抜け出せない例は多い。そんな中、ここ松戸市立中部小学校では、学校の日常に情報教育の手法や視点が根付きつつあるという。早速その地へと取材に伺った。

足腰は
日々の歩みが強くする

発表中

インターネットを活用した調べ学習の内容を、クラスメイトを前にして発表。互いの取り組みを評価し合う子どもたちの視線はあたたかくも真剣だ。

今回取材する授業は、5年生の総合的な学習の時間。テーマはズバリ、子どもたちが間もなく出かけることになる林間学校の旅行先についての調べ学習だ。

これだけ聞けば、ごくありふれた授業のように思われるかもしれない。ところが、ここ松戸市立中部小学校のユニークさは、こうした学校行事がそれだけで完結せず、ことごとく授業と連携して子どもたちの学びを広げるのに一役買っていることにある。

中部小では、1年生からパソコンに親しむ授業が始まるが、以後6年生まで、毎週必ずパソコン教室を使った授業が設けられている。単にパソコンを使った授業が多いということでなく、この密度はすでに、それが「あたりまえ」に日常化していることを示しているのだ。

そのことを端的に表しているのが、毎年学年末に全校で行われる、パソコンを使った作文指導だ。1年間のできごとを、子どもたちが自分なりの表現で作文にまとめる。その道具としてパソコンが位置づけられているということは、学校で行われるすべての学びが、パソコンという横糸で結びつけられていることを意味していると言えるだろう。

このように日常的に積み重ねられてきた学びは、子どもたちの学ぶ力の足腰をいかに強めているのだろうか。

ステップ・バイ・
ステップ

授業冒頭、この日の作業手順を確認する常世田先生

子どもたちは調べたいテーマごとにグループ分けされている

上)授業冒頭、この日の作業手順を確認する常世田先生。
下)子どもたちは、調べたいテーマごとに4つのグループに編成されている。

5年生が林間学校で向かう先は、松戸市が林間学園を持つ、長野県の白樺高原。この取り組みのスタート時には、各学級担任から目的地である長野県についての説明が行われ、続いて、この取り組みの中心になる、インターネットを活用した調べ学習について、十分な時間を割いた説明と実習が行われていった。動機付けからスタートして、ネットからの安易な情報流用を戒めつつ、その利便性を享受して知識を広め、学びを広げるための「説明(知識)と実習(体験)」を循環的に組み合わせた授業だ。

体験的にネット検索を身に付ける中で、長野県という地域に関連して、自分が興味を覚えたテーマを見つけていくように、指導が進められた。

その結果、クラスごとに事前の担任による説明の影響が色濃く表れた、個性あるテーマが並んだという。こうして子どもたちが自発的に関心を持ったテーマを、似たもの同士数名ずつに分け、取り組みのためのグループが作られて、資料づくりが進められてきたのが今日までの流れだ。

いよいよ授業がスタート。この日の取り組みは、全校的な情報教育を受け持つ常世田聡(とこよだ・さとし)先生と、学級担任とのチーム・ティーチングで進められる。

冒頭、常世田先生は、これまでの取り組みを順に振り返ることから始めた。この授業では、ここまでパソコン上でまとめてきた資料を仕上げ、グループ内で「中間発表」を行うことになっている。そのための作業手順をカードで分かりやすく確認すると共に、「発表をするときに気をつけること」を子どもたちに問いかけた。すかさず多くの手が挙がる。
「大きな声で、ハッキリ聞こえるように話すことです」
「はい。聞く人のことを考えて、よく分かってもらうように話すことが大事なんだね」

積極的に話させる振り返りで、子どもたちの脳にもエンジンがかかりはじめたようだ。

願いは
道具の先に

教えあう子どもたち

子どもたちの教え合いは、ごく自然で、しかも 的確だ。

この日授業を取材した5年1組では、「自然」「化石/ナウマン象」「お土産」「温泉」の4つの作業グループが組まれていた。

変化に富んだレイアウトが印象的な中部小のコンピュータ室では、グループごとにまとまって、子どもたちが作業に没頭している。ゆるやかなカーブを描いた作業デスクは、自然と子ども同士の視線が交わり、互いの作業に目が行くため、学び合いを生み出す上で好適な環境になっている。

 1年生からの積み重ねがあるためか、子どもたちの作業ぶりは手慣れたもの。
迷ったり、つまづいたりしたときには、2人の先生はもちろん、近くの友だちが先生となって、その悩みに応えていく。そしてその悩みはと言えば、もっぱらソフトの操作についてであることが多いように見えた。

これは決して操作スキルが低いことを意味するのではない。
「伝えたい、表現したい何か」がすでにあるからこそ、
「そのためにはどうすればいいのか」という問いが絶えず出てくるのだ。

 

お土産について資料をまとめる子ども

「お土産」について資料をまとめる子ども。自分が欲しいお土産という視点もあれば、聞き手が欲しいと思うだろうもの、実際に売れているものなど、さまざまな視点から取り組むようすが印象的だ。

全校的な情報教育への取り組みを通じて、中部小の子どもたちはパソコンを、その操作を覚える対象でなく、それを使って何を学ぶか、実現するのか、というごく日常的な「道具」ととらえるに至っているようだ。