小学校の実践事例

高校と小学校のコラボレーション テレビ会議システムでプレゼンを交換
『はっぴょう名人』でプレゼンテーション資料を作成〜
広島県広島市立白島小学校 / 同・基町高等学校

テレビ会議でプレゼン

IT技術を利用した学校間の遠隔交流が盛んになってきているが、異校種間での実践は非常に珍しいのではないだろうか。今回は広島市立基町高校と同白島小学校の高小連携の取り組みをレポートする。
お隣同士の学校がリアルな交流を実施した後、テレビ会議システムを利用してそれぞれ自校を紹介するプレゼンテーションを交換。先駆的なプロジェクトは、どんな成果をもたらすのだろうか。

まずは高校生から学校紹介のプレゼン 実際に見学してギャップにびっくり

広島市の都心部にありながら、豊かな緑をたたえる広島城。そのすぐ北側に広島市立基町高校、広島市立白島小学校の2校が並んで建っている。周辺には、美術館や図書館、子ども文化科学館など、数多くの文化施設があり、理想的な教育環境が整った地域だ。

基町高校

基町高校のインターネットクラブと白島小学校のパソコンクラブが交流を始めたのは2002年10月。まずは基町高校のインターネットクラブがプレゼンテーションソフトで制作した学校紹介を、テレビ会議システムを利用して、白島小学校の子どもたちに発表した。

基町高校の校舎は、JR京都駅など巨大建築を多く手がけている建築家・原広司氏が設計を担当。1999年から大規模なリニューアル工事を進め、まさに“未来の学校”ともいうべき、近代的な設備が整っている。

しかし、基町高校インターネットクラブが制作した学校紹介は、校舎の美しさや機能性、最新の設備などにはほとんど触れていない。もともと自校の生徒に向けて制作したため、普段の学校生活では気がつかない校内のユニークなスポットを集めた“ひとひねり加えた”コンテンツ制作を目指したからだ。

高校生からのプレゼンテーションを受けた1週間後、白島小学校の子どもたちは、高校生の案内で実際に基町高校を見学する。白島小学校パソコンクラブを受け持つ前田真理先生は、
「子どもたちは『大きなホールがある!』『長いエスカレーターがかっこいい』と、充実した設備に関心を持ちました。テレビ会議システムを利用したプレゼンテーションの画像で得た情報と、実際に見学したのとでは、ずいぶん印象が違ったようで、そのギャップにびっくりしたようです。この経験はメディアリテラシーの向上につながったと思います」
と語る。

白島小学校

次の交流では、白島小学校パソコンクラブが基町高校への“お返し”として、同じくテレビ会議システムを利用したプレゼンテーションを実施することになった。

どんな内容の発表にするか、クラブの時間にアイデアを出し合っていく中で、5年生の女の子からこんな意見が出た。
「白島小は古い学校なので、基町高校のように自慢できる設備は少ないけど、お兄さんたちが紹介してくれたようなおもしろいスポットならたくさんあると思います」

すると5年生の男の子から、
「図工の時間にデジタルカメラを使って写真を撮っていたとき『焼却炉が人の顔みたいだ』って見つけた人がいて、見たらモアイそっくりだった。だから、探せばいっぱいあるよ」

こうして白島小学校からのプレゼンテーション〈ディスカバー白島小〉の制作が始まった。

高校生が小学校に出張指導 写真の貼り付け方をしっかり伝授

白島小学校パソコンクラブのメンバーはまず、それぞれがデジカメを持って校内をまわり、自分で見つけた珍スポットの画像を収集。そのうえでプレゼンテーションソフト『はっぴょう名人』を使って作品作りに取り組む。

この日、クラブに参加した子どもたちは4年生から6年生までの16人。クラブ活動の時間は年間7時間しかないため、ほとんどの子どもはソフトの操作に慣れていない。そこで、前田先生は基町高校インターネットクラブに応援を要請した。

11月1日のクラブの時間に、高校生5人とクラブの顧問である難波太先生が参加し、子どもたちにソフトの操作方法、特に画像の貼り付け方を教えることになった。

「今日はよろしくお願いします」

最初に小学生からお兄さんたちにあいさつ。
「こんにちは。『はっぴょう名人』が使えることを楽しみにしていました。今日はいろいろと教えてください」
これに高校生が応える。
「ぼくらは普段、別のソフトを使っているので、分からないことがあるかもしれないけど、遠慮しないでどんどん質問してください」

全員の拍手の中で、クラブ活動は和やかにスタートした。

しかし、最初は照れがあるのか、子どもたちは高校生に質問できずに、はにかんでいる。高校生のほうもパソコンの操作には習熟しているものの、初心者に教える経験はこれが初めて。なかなか気軽に声がかけられないようだ。

しかし10分が過ぎた頃から次第に打ち解けてくる。

高校生は教室をまわりながら、作業の進んでいない子を見つけ、「どこが分からないの?」と微笑みながら声をかける。 難波先生は
「隣同士なので、朝夕の登下校でお互いを見かけます。顔までは覚えていなくても、親近感は持っている。それに、5歳から8歳ほど歳が離れていますから、高校生は優しい気持ちで子どもたちに接することができたと思います」
と、顔の見える間柄が円滑なコミュニケーションを促した点を強調する。

「いいかい、ここはね…」

実際の作業時間は30分ほどだったが、この日参加した子どもたちは全員、写真の貼り付け方を覚えることができた。

『はっぴょう名人』は、絵や写真を好きな位置に簡単に貼り付けることができるのが特長だ。あらかじめ枠内をクリックしてから[はる]ボタンを押すと、目的の枠に画像が入る。 また、研究や発表のテーマに応じた約200点のフォームの中から好きなものを選んで利用でき、さらに絵や写真は約1100点、枠飾りは約400点のテンプレートが搭載されている。

中には高校生に積極的に質問し、文字入力の枠を作ったり、背景を工夫したり、音を付ける段階にまで進んだ子もいた。高校生は
「普段使っているソフトの応用で『はっぴょう名人』の操作はすぐに理解できました。高校生には親切すぎるくらいだけど、イラストや飾り枠のテンプレートが豊富で、慣れるとこっちのほうが簡単かもしれない」
『はっぴょう名人』の実力に感心した様子だ。

最後は5年生の男の子が
「今日はいろいろなことを教えてくれてありがとうございました。この作品をお兄さん、お姉さんに発表しますので、楽しみにしていてください」
とお礼の言葉を述べる。高校生は「役に立ったかな?」と質問。その答として子どもたち全員から大きな拍手が贈られた。

高校生にこの日の感想を聞くと
「初めはちょっと緊張したけど楽しく交流ができた」
「人に教えるのはいい経験になりました。時間があれば、もう1回、教えに来てあげたい」
といった声が返ってきた。実際に触れ合うことで、両校のクラブの絆はさらに深まったようだ。