小学校の実践事例

2つの校舎で過ごす1年を「つたわるねっと」がつなぐ
〜「けいじ板」の活用で交流学習を日常的に〜
山梨県・甲府市立舞鶴小学校

バーチャルな交流が
リアルの場へ

ワークシートに書き終えた子どもから順次「けいじ板」へ行けるように「ジャストスマイル」から「けいじ板」への道筋、「ジャストスマイル」から「けいじ板」への道筋が示される。伊東先生はこの時間、一切の文字を書いていない。文字を書く時間をすべて子どもたちと向き合う時間に当てているのだ。

手元のシートを見ながら入力する子ども

手元のシートを見ながら入力。授業時間内に納得できるものを仕上げられなかった子どもは、放課後残って作業を続けたという。穴切校舎の友だちに、自分の思いを伝えたいという一心だ。

パソコン入れ替えなどの都合で、「つたわるねっと」で交流を始めることができたのは2学期から。それまで、相生と穴切の子どもたちは、それぞれにどんな人が同じ学年にいるのか分からない状態だった。そこで、まずは自己紹介からスタートすることに。

各校舎の6年生一人ひとりが自己紹介カードを作成し、「けいじ板」に掲示。顔写真や趣味、特技、好きな教科などが書かれたその自己紹介カードに対して、違う校舎の子どもがメッセージを書き込み、さらにそのメッセージに返事を書き込むといった流れを経て、子どもたちはお互いのことを知るようになる。

続いては運動会についての交流。とは言っても、相生と穴切では運動会も別々に開催される。しかし、目玉種目は同じだ。練習が先行していた穴切から相生へ、「けいじ板」を通じて励ましや練習のコツなどが送られると、相生からもお礼の返信があり、それぞれの校舎の運動会当日には、お互いの校舎を訪れて声援を送る児童の姿も見られたという。

両校舎の6年生の児童が交流を始めて、最初に顔を合わせた行事は9月末の遠足。両校舎混在のグループ活動も、「つたわるねっと」での取り組みが活かされスムーズに進み、遠足翌日には「けいじ板」に感想を書き合うなどして、さらに交流が深まることとなった。

子どもたちからは、
「手紙やメールだと、他の人のものが見られないけど、つたわるねっとだと、他の人のも見られるので、良かった」
「掲示板だと、写真も見てもらえるし、感想を書き込んだり、返事を書いたりもできるので、楽しい」
といった感想が得られたという。

相生の子どもたちが「けいじ板」に掲示したもの(1) 相生の子どもたちが「けいじ板」に掲示したもの(2) 相生の子どもたちが「けいじ板」に掲示したもの(3)

▲相生の子どもたちが「けいじ板」に掲示したもの。

校舎は2つ 心は1つ

穴切校舎にて。的確にアドバイスを与えていく斉藤先生

穴切校舎にて。友だちへのメッセージを打ち込むのに夢中で、自分の感想を掲示するのが遅れがちな子どもも見られる。斉藤先生は子どもたち一人ひとりの進行状況を見ながら、的確にアドバイスを与えていく。

取材2日目、今度は穴切校舎にお邪魔した。こちらも総合的な学習の時間。まずは相生同様、ワークシートに校歌の感想を書くところから授業スタートだ。

穴切校舎6年生担任の斉藤宗市先生は、子どもたちの間を回りながらこう助言する。
「思いついた言葉をどんどん書いていこう。もし書き間違えても、消しゴムは使わないように」

とにかく思考を中断させない。また、思考の途中経過を消さずに残しておくことで、書く内容が課題からそれてしまうのを防ぐ。さらに、消しゴムを使わないことで時間短縮にもなる。

子どもたちが一通り感想を書き終えたところで、斉藤先生は子どもたちに 「つたわるねっと」「けいじ板」を立ち上げ、相生の子どもたちが掲示したものを読み、それに対してメッセージを書き込むよう指示。一連の作業に慣れている子どもたちは、運動会や遠足などを経て友だちになった児童の名を探し、掲示を読んで、どんどんメッセージを打ち込んでいく。校舎は2つに離れていても、すっかり同じ学校、同じ学年の友だちという意識ができあがっているようだ。

メッセージを打ち終え、自分たちの感想を掲示したところで、この日の授業は終了となった。

交流学習が生み出す
たくさんの副産物

相生の友だちが掲示したモノにメッセージを書きこむ穴切の子ども

相生の友だちが掲示したものにメッセージを書き込む。複数の友だちに対してメッセージを書き込む子、1人に対して長いメッセージを書き込む子などさまざまだ


取り組みの流れ

「交流学習は6年生のみの試みでしたが、運動会や遠足などの行事を重ねることで、授業時間の交流にとどまらず、本当の意味での『友だち』として発展していってくれたことがとてもうれしかったですね」

相生校舎の伊東先生の言葉に、穴切校舎の斉藤先生もうなずく。
『けいじ板』に掲示したり、メッセージを書き込んだり、それに返事を書いたり、という一連の活動を続ける中で、子どもたちに自然と情報モラルが身に付いていったことも収穫でした。もちろん、基本的なことは知識として教えるわけですが、やはり体験することで知識が身に付いていくんですね」

「収穫と言えば」と伊東先生が続ける。
「文章力も向上しましたね。作文が苦手な子どもでも、相手が読んでくれて、反応があること自体楽しいようで、文章を組み立て、書いたり入力したりすることを面倒に感じなくなったようです」
「それに、子どもたち一人ひとりが、相手に読みやすい文章を書くよう心がけるようになりました」と斉藤先生。
「相手の文章を読むと、『ここが分かりづらい』とか『この表現は上手だなぁ』とか気づくようになる。その気づきから、自分の文章を客観的に読み返せるようになっていくんですね」

交流学習は、互いに交流を深めるのみならず、子どもたちにさまざまな副産物を与えてくれたようだ。

12月9日に行われた「校歌発表会」の様子は、 相生校舎のホームページで公開されている。交流学習を経て1つになった子どもたちの歌声と、宮沢和史さんも訪れた発表会の様子を、ぜひ視聴いただきたい。

 

◆山梨県甲府市立舞鶴小学校

甲府城の別名、舞鶴城の名を受け継ぐ。児童数は相生校舎148名、穴切校舎223名、計371名。
室伏秀一(むろふし・ひでかず)校長。

・相生(あいおい)校舎 http://www.aioi-e.kofu-ymn.ed.jp/

・穴切(あなぎり)校舎 http://www.anagiri-e.kofu-ymn.ed.jp/

取材/西尾真澄 撮影/西尾琢郎
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。