キャリア教育ヒントボックス

人が好き自然が好きたくさんの笑顔に出会いたい
ペンションオーナー 荻嶋博司さん・留美さん

趣味や特技が仕事に直結する幸せ

ペンションエルブルズのポーチからの吹き抜け

ペンションを始めるのに必要な資格は「食品衛生管理者」と「防火責任者」のみ。調理師免許はいらないが、持っていれば食品衛生管理者の資格はいらない。

調理師免許を持つ博司さんはこう語る。

「ウチは料理をメインに据えた宿を目指してスタートしたので、自分の料理人としての経験が存分に役立っています」

患獣の飼い主さんと接したり、営業的な仕事もこなしていた留美さんにとっては、接客もお手のもの。

「始めるにあたって、不安はなかったですね。私も主人も、何か新しいことを始めるのが好きなんです」

エルブルズでは、よほど忙しい時期を除いて、ご夫婦2人でお客様を迎えている。そのアットホームな雰囲気、本格的なお料理、そして貸切露天風呂が人気だ。

6時半に起床。博司さんは支度を整えて7時半までに厨房に入る。お客様の朝食が8時半。調理を終えた博司さんはお嬢さんの初音ちゃんと朝食を済ませ、9時過ぎに初音ちゃんを連れて保育園へ。博司さんがその日の仕入れをしてお昼頃に帰宅するまで、留美さんはお客様のチェックアウトとお掃除。

「意外と時間はあるんですよ。良くも悪くも、予約が入っていない日は完全オフになりますし(苦笑)。それに、例えばペンキを塗り直したり、芝刈りをしていたりしても、あまり仕事をしているという意識はないんですよね」

そう言って笑う博司さん。時には、釣果がお客様の夕食の素材になったりもする。庭で各種のハーブを育てている留美さんも、それが仕事に関わる作業であっても楽しくて仕方がないと言う。

午後、博司さんは4時頃から夕食の準備を始める。留美さんは初音ちゃんをお迎えに。お客様の夕食は6時半スタートで9時頃まで。お客様と談話、後片付けや事務処理などをこなして、お客様の少ない時には11時頃、多い時には1時頃に就寝とのこと。留美さんは就寝前にパソコンに向かう。

これからはネットだ! 前オーナーの予測的中

エルブルズの場合、8割がWebサイト経由のお客様だという。エルブルズのホームページには、旅行関係のポータルサイトからたどりく方と、「伊豆」「ペンション」「貸切露天風呂」「料理」「ダッチオーブン」などで検索してたどり着く方が半々だとか。

パソコンを操作中の留美さん

「前のオーナーさんが『これからはネットだ!』と助言してくださったんです。OL時代にパソコンを使えるようになっていて、本当に良かったと思いました」

70歳を過ぎていた前オーナーさんが、ネットの効果について鋭い助言をくださっていたことは驚きだ。

「ネットで知り合った方に、ホームページ制作のコツを教えていただいたりして。どうやったら検索に引っかかりやすくなるか、何を求められているのか……と、試行錯誤の繰り返しです」

ホームページ担当は留美さん。さすがに毎日更新は難しいですねと笑う。けれど、9月末からは携帯電話で画像をアップできる日記も始まり、ホームページはますます充実の一途。掲示板への書き込みも活発になされている。

「泊まってくださったお客様のひと言がとてもうれしいですね。励みになります」と留美さん。

夢は叶えるためにある

できることから1つ1つ叶えていきたい、とお2人は口を揃えるものの、やはり夢はある。
「リビングが欲しいんです。食事の後にお客様と談笑できるような。暖炉があったりしたら素敵ですよね」

博司さん厨房にて

そう語る留美さんに対し、博司さんは、
「狭い厨房を広くしたいんですよ。実は、テラス部分を厨房にする、という案もありまして」
と、リフォーム計画を話してくれた。厨房を広くして、更に談話室を作る、というプランで、実際に知り合いの設計士さんに頼んで図面まで引いてもらったとか。

「資金的にも、すぐに大改造するわけにはいきません。収支はかろうじて黒字ですが、まだまだこの先、エルブルズ購入時に借りたお金を返していかなければなりません。それに、ペンション業界はブームが去って久しい状態で、経営が上手くいかず、売りに出すところも少なくないんです。でも、やっぱり夢は持っていたいじゃないですか」

夢を叶え続けてきた博司さんならではの言葉だ。力強く、重い。

ペンションを始めて良かったと思う瞬間は?……との問いに、博司さんはこう答えてくれた。

「すべての料理を自分1人で作って、その料理でお客様が喜んでくださった時が1番うれしいですね」

荻嶋夫妻PROFILE
荻嶋博司・留美(おぎしまひろし・るみ)

1965年、大宮市(現さいたま市)に生まれた博司さんと、1966年、横浜市に生まれた留美さん。お嬢さんの初音ちゃんは2000年生まれ。ペンションを始めたばかりの頃は人見知りが激しく、泣いてばかりだった初音ちゃんも、最近は積極的にお客さんに接するようになってきたとか。働く両親の姿を毎日目にしているせいか、お手伝いが大好きな女の子に育っている。

■ペンション エルブルズ
〒413-0304 静岡県賀茂郡東伊豆町白田1458-21
http://www.elburz.jp/

取材/西尾真澄 撮影/西尾琢郎
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。