見える「評価」で授業が変わる! 〜ルーブリックで授業作り〜

第1回 ルーブリックとは
関西大学総合情報学部 教授  黒上晴夫(くろかみ・はるお)先生 

見える「評価」で
納得の構図

インタビュー中の黒上先生

「『見える評価』は『見えない学力』を見せてくれます。ルーブリックは、子どもたちの興味や関心、意欲的な態度、向上心といった、結果に残りにくい部分を評価することが可能なツールなのです」と黒上先生。

また一方で、子どもたちが「客観的に評価されている」という安心感をも得ることができる。

「見えない評価で、学期末に首をかしげながら通知表を眺める子どもたちの表情はツライものです。『自分はあんなに頑張ったのに、どうして?』『アイツより低い評価なんて納得できない!』『えこひいきだ!』と不満に思う子どもたちの気持ちを、通知表だけでは受け止められないんですね」

具体的に何が評価を下げる原因となったのか、何を改善すれば評価が上がるのか。どんな力を身につければより高い次元に到達するのか。子どもたちはその具体的な答えを知りたがっているのだ。

「評価基準が見えていることで、子どもたちだけではなく、保護者も納得してくれるんですね。子どもたちも保護者に対して『これができなかったんだ』『次はここができるように頑張るよ』と説明できる。保護者も日常生活の中でそれを支援できる。すべて巻き込んで納得させることができるのです」

ルーブリック作成の過程で
明確になる「ねらい」

最初に「ルーブリックづくりは大変」と仰った黒上先生。それでも、子どもたちにとっては多くのメリットを内包していることが分かった。では、先生方にとってのメリットは?

「客観的で、しかも一貫性のある評価基準を作成することで、当然、教師自身の評価基準も明確になります。単元全体の見通しを立てる中でルーブリックを作成し、評価基準が確かなものとなれば、おのずと単元のねらいも具体性を増していきます。そうして分かりやすくクリアなねらいを設定することができれば、そのねらいの実現に向けて最適な授業設計を行うことができるようになるんですね」
そのためには、と黒上先生は言葉をつなぐ。

「評価基準があいまいではダメなんです。基準が『○○がだいたいできる』だったとしますよね。でも、人によって『だいたい』のレベルは違う。そうなると、評価がブレてしまうんです」

評価基準を作るのは大変でも、評価をすること自体は極めてシンプルに、誰が見てもブレない、ある意味デジタルな『ものさし』を作らなければならないと黒上先生。

「しかし、ブレない『ものさし』を作ることができれば、子どもたちの学習意欲や学習レベルを簡単に把握できるようになります。また、それによって子どもたちへの助言もしやすくなりますし、支援のポイントもはっきりします。低いレベルにいる子どもに積極的なケアを行うことも可能になりますよね」

先生にも子どもたちにも、ともにメリットを生み出すルーブリック。黒上先生は、数ある活動内容の中でも特に「思考」「考える力」に焦点を当てたルーブリック作りを進めている。

考える力をはぐくむ
ルーブリック

では、黒上先生はなぜ「思考」に注目するのだろうか。
「『考える力』というものは、なかなか評価しづらいものです。『結果よりも過程が大事』とはよく言いますが、実際にその『過程』を評価する客観的な手掛かりはあまり用意されていないんですね」

知識・理解、技能といった『結果』は、単元終了時にペーパーテストなどで比較的簡単に測ることができる。しかし、『過程』、つまり思考・判断などの力は把握しづらく、簡単には測れない。
「それゆえに、そうした『過程』の部分は、今までは評価の面でも軽視されがちでした。そこをすくい上げなければ、と考えたのです」

さまざまなことに関心を持ち、自分で調べ、考えることができる子どもを育てたいと黒上先生。知識偏重ではなく、自ら問題を発見し解決する「考える力」を伸ばすことが、黒上先生の作成するルーブリックの帰着点だ。

次ページには、実際に使用されているルーブリックの一部を掲載した。それぞれの学習活動に対する評価をどう設けているかはもちろん、具体的な言葉を評価基準としているところにも注目だ。


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取材/西尾真澄 撮影/西尾琢郎
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。