つながる・広がる 地域と学校
学校教育評価アンケート 〜その結果公開が生んだもの
鳥取県・米子市立日新小学校/校長 武永健一先生・教諭 石倉和幸先生
米子市永江公民館/館長 豊田智寿枝さん
積み上げてきた地域とのつながり
―本日は、日新小で実践されている地域との連携、特に学校教育評価アンケートについてお伺いしたいのですが、その前に、地域とのつながり全般についてお聞かせいただけますでしょうか。

武永校長先生(武):
本校は、この地域に建設された大規模団地を学区として成長してきました。団地の拡大と共に、至近に学校が増設され、その後、世代の変遷と共に子どもたちが大きく減り、現在に至っているという状況です。
豊田公民館長(豊):
団地と成長を共にしてきたために、地域住民、すなわち団地住民と学校は、常に交流を持ってきましたね。
武: そうした中、平成3年にPTAや自治会、子供会、社会福祉協議会などからメンバーを出し合い、家庭地域連携推進会議(以下・推進会議)が作られたのです。地域とのつながりと言っても、多くの場合、学校と家庭という二者間の関係にとどまりがちです。そこで、児童の家庭以外の地域の方を加えた明確な組織として形にしたものです。
今日の主題である学校教育評価アンケートですが、それを開始するまでは、この推進会議のメンバーを対象に、その前身のようなアンケートをお願いし、またその結果をお見せしていました。
学校教育評価アンケート
― そこで、本題の学校教育評価アンケートですが、その実施のいきさつを話しいただけますか。
特に、アンケート結果をすべて一般に公開するという決断についてもお聞かせください。
武: 先ほどお話しした、推進会議のみなさんへのアンケートの延長線上で、もっと広く、多くの皆さんの意見を募ってはどうかと考えたことが出発点です。
平成14年度から、7月と2月、年度当たり2回実施しています。学級が落ち着き始める7月に要望や意見を吸い上げ、それに取り組んだ結果がどう受け止められたかを2月に確かめるためです。
石倉先生(石):
寄せられたアンケート結果は集計後、分析の上で公開するのですが、これは主に学校だよりや学校のホームページなどを通じて行っています。学校だよりはすべての児童の家庭に配布することはもちろん、学区内の自治会を通じ、回覧板で地域のすべてのご家庭でもお読みいただけるようにしています。
武: 結果の公開については、さまざまな意見があったことは事実です。しかし、結果として出てきた事実を、事実として受け止め、活かしていくためには、内外への公開が必要だと判断し、先生方にも理解してもらいました。

石: アンケート結果の公開という取り組みについて、迎合的だというご批判を外部の方からいただいたこともあります。しかし、私たちは、寄せられた意見に、なんでもかんでも「おっしゃる通りです」と申し上げているわけではないのです。
もっともだと思われるご指摘は真摯に受け止め、対応策を練る一方で、いや、これは違う、誤解だという点については、反論ではなく、ねばり強い説明や、実際の行動を通じてお分かりいただくように努力しています。これは逆に言えば、私たちがしっかりやっているつもりの事柄でも、それが家庭や地域に伝わっていないということでもありますから、そのこと自体が反省の材料になります。
一方で、結果の公開は、アンケートの意味も変えていきます。発表というリアクションが返ってくることによって、アンケートでご意見くださった方は、もう学校に無関心ではいられなくなるんです。結果として、学校の問題を、地域ぐるみで我が事として考えてもらえる環境を作っていくことができます。
武: 結果の分析や公開にあたって、私たちが特に注意していることがあります。
こうしたアンケートを取ると、必ず、評価の低い項目が出てくるものです。そのすべてにすぐさま対処するのには無理がありますが、そうした項目の中で、子どもに直結する問題など、優先度の高いものについては、「この点についてはこう対処します」といった対策を一緒に発表するのです。
そうすることで、教師の側には「やらなくては」という気持ちが生まれますし、アンケートに答える皆さんにとっても「自分が投じた意見がこう受け止められている」ということがハッキリと見え、回答への意欲にもつながります。もちろん、石倉先生の言うように、自分が投じた意見の行方を見守りたいという意識で、学校運営への一体感を持っていただくことにもつながるわけです。
評価とは自分を見つめ直すこと
石: 結果の公開がアンケートの意味を変えると言いましたが、それにはもうひとつの側面もあります。
結果の公開を前提にしてアンケートに答えていくと、学校を評価しているつもりで、いつの間にか、回答者が自分自身を評価していることに気づいたりするのです。自分の回答を、結果発表の中で、客観的に見られることが、こうした気持ちにつながっているように思います。

武: その通りですね。冒頭、推進会議について、学校、家庭、地域の三者の参加する会議と申しましたが、このアンケートもまた、それを行う学校側と回答者という二者間の関係ではなくて、関係するすべての人が、自分を見つめ直すはたらきができるものだと思っています。
豊: アンケートが実施されるようになってから、日新小の先生方がよりオープンになり、お目にかかってもいろいろな話がしやすくなったと感じています。お互いに腹蔵なく、本音が出し合える関係ができあがりつつあるのではないでしょうか。校長先生は、本当に勇気のある決断をされたと思いました。
こうしてできた信頼関係を元にして、今、地域では日新小の子どもたちに対して「永江(学区名)の子」という意識が生まれています。スポーツなどの行事でも、地域のお年寄りと子どもたちが一緒に楽しんでいけるようになりました。
武: そういえば先日も、地域の行事で囲碁の打ち方を習ったと喜んでいた子どもがいましたね。こうした結びつきは、ありがたいことです。
―最後に、アンケートの今後については、どういった展望をお持ちですか。
石: 現在、アンケートの質問は30問以上あって、回答が大変なのですが、定点観測という意味もあって、同じ設問を続けてきました。ですが、2年間4回の実施と結果発表を重ねてきましたので、そろそろ設問内容に手を入れて、質問数を絞りたい、あるいは今までとは違ったことをお訊きしてみたいと思っています。

米子市南東部の丘陵上に位置し、間近には弥生〜古墳時代の遺跡である福市遺跡を控えた豊かな環境にある小学校だ。これまでも情報教育に積極的に取り組み、多くの奨励を受けるなどの実績がある。児童数66名。