キャリア教育ヒントボックス

相手は自然=大変なのは当然 でも、何より海が好きだから
ハマチ養殖業を営む 西村 開(にしむら・ひらく)さん

オヤジの背中は雄弁だ。日に焼けた肌、盛り上がった筋肉、分厚く大きな手。船を自在に操り、サンダル履きでひょうひょうと養殖いかだの上を歩くその人は、三重県度会郡大紀町(わたらいぐんたいきちょう)でハマチの養殖業を営む西村さん。父の後を継ぎ、養殖業を始めて20数年。「好きじゃなきゃできないですよ」と笑う西村さんに、養殖業の魅力について伺った。

泣き出しそうな空 船に乗り養殖いかだへ

西村さんの背中

三重県の中南部に位置する大紀町。大宮町(おおみやちょう)・紀勢町(きせいちょう)・大内山村(おおうちやまむら)の3町村が合併し、今年2月に生まれた新しい地名だ。西村さんが養殖いかだを浮かべる錦湾(にしきわん)は、複雑に入りくんだリアス式海岸に面した旧紀勢町に位置している。

「真っ黒でしょ。もう、ホント、こんなカッコ悪いおっさんでスイマセン」

開口一番、西村さんはそう言って笑った。「真っ黒」に日焼けしているのはまさにその通りだが、「カッコ悪い」はまったくのウソだ。

「私なんか撮らずに、魚を撮ってやってください」

あいさつもそこそこに、養殖いかだまで船で案内していただくことに。取材日は梅雨のさなかで暗い曇天だったが、幸い雨も降らず、念のため用意していた雨具も身に付けずの出航となった。

養殖業も自然が相手 台風接近で眠れぬことも

塩浜山村広場から錦湾を眺める

尾鷲の島々まで一望できる塩浜山村広場から、錦湾を眺める。点々と浮かんでいる養殖いかだの1つ1つに、何千、何万という命がはぐくまれている。

ハマチの養殖いかだ

ハマチの養殖いかだ。モジャコの段階では、1つのいかだに3万匹ほどが養殖されている。大きくなってくると1つのいかだに放養する数を減らす。ハマチの養殖いかだの網はマダイのそれなどに比べて汚れやすく、2カ月に1回程度の頻度で張り替えなければならないという(マダイは1年に1回程度)。成長が早く、出荷までの期間は短いが、体力的にはハマチの方が大変だと西村さん。

「黒いシートで覆いをしているのはタイの養殖いかだです。タイは日焼けして黒くなると商品価値が落ちるんですね。やっぱり赤くないと。ハマチは日に当たっても色が変わったりしないので、覆いは粗い目の網です」

直径30mほどの養殖いかだの間を巧みに抜けながら、西村さんはハマチのいかだの横に船を着け、浮きの上に移る。配合ペレットのエサをまくと、静かだった水面がにわかに波立ち、ハマチの稚魚が多数姿を現した。飛びつくようにエサに群がる。食欲旺盛だ。

「この段階はまだモジャコですね。流れ藻に付く雑魚という意味です」

スズキ目アジ科ブリ属。一潮一寸と呼ばれるほど成長が早いブリは、言わずと知れた出世魚。ハマチはブリの幼名だが、養殖ではハマチ程度の大きさで出荷することが多いので、養殖ものは大きさにかかわらずハマチと呼ばれることも。

「朝は3時ごろに起きて、魚にエサをやります。普段、一番気になるのはお天気ですね。台風が接近しているときはのんびり寝ていられません」

台風が気になり、携帯電話でお天気サイトに頻繁にアクセスしていて、パケット代がとんでもない額になったこともあったとか。

「さすがに女房に怒られました(苦笑)」

まねることが学ぶこと 教科書は父親の背中

西村さんの足代わりの船

手前が養殖いかだまで案内していただいた、西村さんの足代わりの船。奥の少し大きな船がモジャコを捕りに行くための船だ。モジャコは「1日で見つかることもあるし、1週間かかることもある」と西村さん。

祖父の代から3代続いての漁師。養殖業を始めたのは父親で、西村さんhちで見ていれば、自然と身に付くものなんです」