ATOKの作り方
〜「入れ立てのお茶」のナゾ〜

構成・文=ジャムハウス
Illustration=Akira Sasou
エイトッくんとコータくん
兄:国語が得意。頭脳明晰だけど、ちょっとおっとり。 弟:野球が得意だが、国語はちょっと苦手。


KOTA:ATOKファンのみなさん、はじめまして、ボク「KOTA」と言います。これからATOKのサポーターとして、がんばります!!よろしくお願いしまーす!……で、さっそくだけど、 コータくん 今回のお題は、「入れ立てのお茶」について。というのも、このあいだ、一太郎9の内田有紀ちゃんのTVCMを見て、近所のお茶屋のおじさんが言ってたんだよ。「わかってないねえ。お茶をいれるときは “淹れる”じゃなきゃだめだ!!」って。有紀ちゃん可愛かったから、そんなこと全然気づかなかったけど。間違ってるのかなあ。
KOJI先生:何を言っとる!!
KOTA:わあっ。おじさんたち、誰?
KOJI先生:わしらは、ATOK監修委員(*)ぢゃ。
KOTA:へ〜。野球の監督さんみたいなもの?偉い人たちみたいだけど。で、さっきの「お茶を入れる」なんだけど、「入れる」ってのは間違いなんでしょ。ダメだよ、間違ったこと宣伝しちゃあ。
KOJI先生:まあ、そう焦るでない。気をつけないといかんのは、「お茶をいれる」というとき、それは単に「お茶」という飲み物を湯飲みに「入れる」という行為、動作を指すかというと、実はそうではないということぢゃ。 「お茶を作る」ということも意味しておる。つまり、お湯を急須に「入れる」ことによってお茶の液を作る……。ウン、この「作る」ということに注意しないといけないんぢゃ。
KOTA:×○■?。よくわかんな〜い。
KOJI先生 MAO先生:じゃあ、スポーツが得意なKOTAくんのために、野球を例にとって説明してあげよう。「ボールを打つ」というと実際に「ボール」という物体を「打っ」ていることを意味するよね。 しかし、「ヒットを打つ」といったときは、「ヒット」という物体があって、それを「打つ」のではない。「打った」結果が「ヒット」になるということ。この結果にあたるのが、この場合の「お茶を入れる」という言葉。 つまり「お茶を作る」ことの結果を表しているんだよ。
KOJI先生:そのお茶を「作る」方法を表す場合に「淹れる」「煎れる」という違った表記が出てくるんぢゃ。「淹」という漢字には、「(水で)おおう」という意味があって。湯を注いでお茶を作る意味に使われておる。 「煎」は、「煮詰める」という意味で、茶葉を煮出してお茶を作るということぢゃ。それでは、文学作品で「お茶をいれる」がどのように表現されているか調べておいたから、それを見てみよう。

MAO先生 「婆さんが漸く急須に茶を淹れて持って出た」
「阿父様はご苦労と手ずから御茶を入れて下さった」(夏目漱石)
「お茶を淹れて来ます」(赤川次郎)
「若い二人はよく菓子を買ってきて、茶を煎れて飲んだ」(田山花袋)

KOTA:えっ、そんなことまで調べてるの?でも、お菓子を食べるときは、ボクはコーヒーがいいなあ……。
MAO先生:私もそうだよ。
KOJI先生:ワシは絶対お茶ぢゃ……ってそういう話じゃなくて、ATOKで正しい言葉に変換できるようにするために、その言葉が実際に、どのように使われているか調査するようにしておるんぢゃよ。たかが変換、されど変換なんぢゃ。
KOTA:意味はわかったけど、なんで、最初に「入れる」に変換されるの?
MAO先生:「入れる」「淹れる」「煎れる」の中で、最も一般的な「いれる」はどれだと思う?
KOTA:「入れる」かなぁ、やっぱり。
MAO先生:そう。「入れる」は、常用漢字。しかも、文豪・漱石先生も使っているように、「お茶を入れる」と一般的によく用いられている。だから、ATOKでは、最初に「入れる」と変換するんだよ。 ATOKはみんなのもの。まず、一番一般的なものに変換されるんだ。
KOTA:じゃあ、「入れる」で正解なんだ!
ボールをうつ ヒットをうつ MAO先生:そうだよ。ただ、二番目以降に出てくるものが間違いかというと、そうでもない。学校や会社などでは、より一般的な書き方が望まれるけど、さっきのお茶屋さんみたいにお茶のいれ方に詳しい人は、「淹れる」や「煎れる」で書き分けたいと思うかもしれない。 また、お茶を注ぐのを「入れる」、お茶を作るのを「淹れる」と区別したい人もいるかもしれない。ATOKには、さまざまな書き方も入っているけど、それを時と場合によって、うまく使い分けて欲しいんだ。
KOTA:ふーん。ATOKはそこまで考えて作られてるって訳なんだね、先生。


解説(*)ATOK監修委員会 紀田順一郎氏を座長とし、日本語学者、辞書家、編集・校正などの日本語の実務家で構成されている。ATOKの辞書編纂から変換候補の順位付け、AI変換用例など、日本語をコンピュータで扱うためのさまざまなテーマを、 うつりゆく時代を見据えながら議論し、製品に反映していくための機関。以上の見地から提言を行うだけでなく、時には一つ一つの単語について辞書に登録すべきか否かのチェックの実作業を行うこともある。


補足コラム:お茶を「いれる」の表記について


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update 1999.5.20