中学・高校の実践事例

広がる中学ロボコンの輪 その発信地を訪ねて 
〜敗者なき競い合いが学校を変える〜 八戸市中学校ロボットコンテスト

八戸市中学校ロボットコンテスト

以前、熊本県での取り組みをご紹介した中学ロボコン。ロボット作りに打ち込む生徒たちのひたむきさには、学校や地域すら変えていく力が秘められていることが次第に知られるようになってきた。そこで本号では、こうした中学校でのロボコン実践の発信地とも言うべき青森県八戸市で開催された市内中学ロボコンの取材に向かった。そのレポートをお届けしよう。

会場整備は 「ロボコン先生」たちの手で

取材班が大会前の会場に到着すると、会場整備は、参加中学校の先生の他、各地から集まったロボコン実践家の先生方によって進められていた。それぞれが手弁当でのボランティアである。といっても、単に力を貸すのみではない。実地に会場準備や運営に携わることで、八戸の、そして中学ロボコンの生みの親である下山先生の生きたノウハウを吸収することができるのだ。

文化祭で行われた公開競技の様子

現在各地に広まりつつある中学ロボコンは、こうした有志の先生方によるボランティア的な協力・交流を通じて展開してきた経緯がある。
  この日の会場設営においても、忙しく立ち働く先生たちの目は、むしろ 「学ぶ」輝きに満ちているように見えた。こうした前向きな力に支えられたイベントはその輝きが違う。

周囲を巻き込むイベント作り

会場がその形を整えはじめたころ、下山先生は、昨年の大会が取り上げられたニュース番組やビデオなどを会場正面に設置されたモニターに映し出した。一方、観客を待つ客席には、会場に集まりはじめた応援の生徒たちの手で大会パンフレットが配布され、あたりを行く買い物客の目を引きつけはじめた。こうしたイベントは、参加者やスタッフだけでできあがるものではない。競技を見守り、声援をおくってくれるギャラリーの存在が不可欠だということを、下山先生は誰よりもよく知っている。
  これらギャラリーは単なる観客ではなく、学校や生徒たちを取り巻く地域社会そのもの。その理解と支援なくしては、この日のイベントだけでなく、日頃からのロボコンへの取り組み自体が根無し草になってしまうからだ。 座席に配られたコンテストのパンフレットを手に取って見入ったり、おもむろに席に着く人が増えはじめた。ショッピングセンターの1階から3階まで吹き抜けになっている会場では、上階でイベントの開始を待ちわびる人の姿も見える。会場の熱気は、臨界点まであとわずかだ。

校内特許がひらく可能性

車検ではルール適合検査のほか、校内特許シールの交付も行われた

競技の開始に先立ち、出場ロボットの 「車検」が開始された。
  ロボコンにおける車検とは、あらかじめ決められた競技のルールに適合したロボットであるかどうかを検査し、競技の公平性を保つものだが、今回は同時に、新たに取り入れられた 「校内特許」の認定シールが交付される場にもなった。
  校内特許とは耳慣れない言葉だが、これは文字通り 「校内(今回の場合は市の大会なので参加校全体)」を対象に、ロボット作りについての独自性あるアイデアを特許として申請させ、これを審査・認定するもの。特許認定されたアイデアを用いたロボットには車検で付与されたステッカーが貼られ、競技ではあらかじめ1ポイントが与えられる。今大会のテーマであるシーソー競技は3つのシーソーの内、いくつを自陣側に傾けられるかを競うものなので、この1ポイントは大きな意味を持つ。

 

会場内に掲示された校内特許の数々

この校内特許という取り組みは、長野県の中学ロボコンにおいて、村松浩幸先生(現・三重大学教育学部助教授)が始めたもので、冒頭に述べたようなロボコン先生たちのつながりの中で、今回の実施に至った。とりわけユニークなのは、複数校の間で特許制度を運営するにあたって、インターネット経由でアクセスできる特許データベースを市の教育センター内に構築したことだろう。申請から審査、認定までがこのシステムで行われる画期的なものだ。
   当初はとまどっていた生徒たちも、申請した特許が認められれば、競技で優位に立てるという明確な動機付けにより、期待以上に積極的に申請に取り組んだという。 当日の会場運営にも加わっていた村松先生にお話を伺うと、
「生徒たちが自分の取り組みを、他人に分かってもらえるように表現しようとすることの効果が大きいです。工夫や技術というのは、そうして表現することで蓄積されたり、伝わったりするわけですが、それを実際に体験できるのですね。この取り組みを通じて、生徒たちの表現力が確実に高まっているのを感じます」と話してくれた。