小学校の実践事例

情報モラル学習 学びの糸を紡いで
〜 学年間交流・家庭浸透を織り交ぜた立体的実践 〜
埼玉県・埼玉県春日部市立上沖小学校

触れ合いこそが
学び合い

5年生のレクチャーは、一方的な説明ではなくクイズやアンケートも交えて2年生の反応を引き出す双方向的なもの。
クイズやアンケートに真剣に答える2年生の様子

5年生のレクチャーは、一方的な説明ではなくクイズやアンケートも交えて2年生の反応を引き出す双方向的なもの。その問いかけに真剣に答える2年生の様子もまた印象的だった。

授業は、2年生のもとへ5年生が赴き、レクチャーをするという形で行われた。鷲林先生による導入は、まず2年生の実態把握。これはもちろん、この後実際のレクチャーを行う5年生たちが、聞き手の状況を知るためのものでもある。

その結果は予想を超えるものだった。 実に全体の9割以上の子どもが、インターネットと携帯電話の利用を体験しており、1〜2割はメール送受の体験すら持っていたのである。 こうした実態を知ると、2年生にも情報モラル教育をと考えた鷲林先生の思いが、先走ったものでないことは明らかだろう。

続いて5年生による情報モラルのレクチャーがスタート。 「つたわるねっと@フレンド」などの情報モラル教材を活用し、ネットいじめやウイルスの危険、著作権の問題など、 グループごとに選んだテーマに沿って進められた。寸劇あり、スライドショーあり、クイズあり、アンケートありのバラエティに富んだ内容に、 2年生たちは食い入るように見つめ、積極的に参加し、自然と情報モラルについての学びを得ていた。

思えば、子どもが社会性を獲得していく上で、学びにせよ遊びにせよ、子ども同士の接触が果たす役割は非常に大きいものだったはず。 それが薄れつつあると言われる昨今、この授業のように、上級生と下級生が触れ合いの中で学ぶことや、 そのテーマとして選ばれたのが「モラル」であることには深い意味が感じられた。

学校だけで
終わらせない

2年生たちが5年生たちに注ぐまなざしは真剣そのもの。

2年生たちが5年生たちに注ぐまなざしは真剣そのもの。5年生のレクチャーは2年生にとって、単なる知識を越えて体験の域にあるのかもしれない。

「先生方の目を向け、学級から学年の垣根を越えて、情報モラル学習を広げていこうというビジョンを進めてきましたが、もう一つ、欠かせないものがあるんです」 と鷲林先生。

それは家庭の理解と協力だ。教科学習とは異なり生活態度にも関わる「モラル」だけに、当然のことだろう。

活発なPTAのほか、「おやじの会」など、学校に協力的な保護者の活動が盛んな上沖小だが、具体的な学習に踏み込んで、その内容を保護者に理解してもらい、協力を得るのはやはり容易なことではないだろう。

「そうですね。ですからいろいろ工夫をしていますよ。これは一例ですが、授業参観の日の授業を、情報モラルを扱ったものにするのです。こうすれば、参加される保護者の数が一番期待できる上に、関心を持って見ていただくことができますから、家庭に帰ってからも、その内容を話題にしてもらえると思うんです」

モラルを前面に打ち出さないまでも、保護者に向けた林間学校の報告を子どもたちが「はっぴょう名人」で行ったり、デジカメを毎日交代で自宅に持ち帰って、思い思いのネタを撮影、翌日クラスでコメントを添えて発表するデジカメスピーチの取り組みなど、さまざまな形で情報や情報機器との付き合いを日常化する取り組みを展開している鷲林先生。

「今はまだクラス発の取り組みですが、しっかり実績を形にして、学校ぐるみのカリキュラムや取り組みに育てて行きたいですね」

先生方を、子どもたちを、そして保護者を巻き込んで、鷲林先生の情報モラル教育は、時代の変化に劣らぬ早さで進化していこうとしているようだ。


マルチメディアディスプレイを活用する一方、相互評価の中から生まれ広まった寸劇が2年生の好奇心を引きつけ、モラルを心に刻んでいく。

マルチメディアディスプレイを活用する一方、相互評価の中から生まれ広まった寸劇が2年生の好奇心を引きつけ、モラルを心に刻んでいく。

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◆埼玉県春日部市立上沖小学校

広大な関東平野のほぼ中央、埼玉県東部に位置する春日部市。上沖小学校はそのさらに中央に位置する大規模校だ。学校運営に積極的に協力する父親の集まりである「おやじの会」など、家庭ぐるみ、地域ぐるみで子どもたちを育もうという思いにあふれた環境が自慢。児童数1,003名、横塚雅光(よこづか・まさみつ)校長。

取材・西尾琢郎/撮影・齋藤浩(スタジオエイブル)
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。