小学校の実践事例

おいしく食べる、楽しく食べる  キーワードは早寝・早起き・朝ごはん
〜 「食」を通じてはぐくむ、健全なる心と体〜
山口県・萩市立椿東小学校

食べものへの感謝
作ってくれる人への感謝

給食当番の子どもたち

まずは調理室の前で整列し、調理員の方々にあいさつ(上)。それからおのおのが食缶・食器を持ち、協力しながら教室まで運ぶ。

取材にお邪魔した日はちょうど、月に3回(10・20・30日)設けられている 「食器のスッ空カンデー」。給食残食ゼロを目指して、実際にどのような指導がなされているのか、我々は野村先生とともに給食室へと向かった。

すると、給食用白衣に身を包んだ給食係の子どもたちが、きちんと並んで廊下を歩いてくる。

「こんにちは!」

マスク越しの声が元気に響く。野村先生はすかさず、子どもたちの身なりをチェック。帽子がずれている子や、白衣のボタンが外れかかっている子に注意をする。

椿東小は自校調理。子どもたちは調理室の様子がよく見えるガラス戸の前に並び、まずは調理員の方々にあいさつ。それから自クラス用の食缶や食器を分担して持ち、もう一度あいさつをしてから教室へと戻っていく。


給食室の手前にある身だしなみをチェックするための掲示物

給食室の手前には、身だしなみをチェックするための掲示物。こうして習慣づけることで、子どもたちは衛生管理の重要性に気付く。

続く他クラスの子どもたちも同様に、学年に関係なく、低学年の子も高学年の子もきちんと整列し、あいさつする一連の所作が美しい。

「食べものに対する感謝の気持ち、そして調理してくれる人への感謝の気持ち。食べることに不自由しないことは決して当たり前のことではないんだということを、子どもたちに教えたいんです」

きめ細かな指導で
残食ゼロへ

パワフルに校内を回り、子どもたちの「食」を見守る野村先生給食室、放送室、各教室、そしてランチルームと、野村先生はパワフルに校内を回り、子どもたちの 「食」を見守る。

配膳を終えたクラスから、 「いただきます!」と大きな声が届く。今日の献立はセルフバーガー、牛乳、きのこサラダにオニオンスープだ。

セルフバーガーはその名の通り、皿に盛られたレタスとハンバーグ、そして別添のスライスチーズを自分でパンに挟んで完成させる。中にはスライスチーズのフィルムがうまくはがせずにチーズと悪戦苦闘している子どももいるが、自分で完成させること自体の楽しさと、そのおいしさで、満面の笑みを見せてくれる。


後片付けをする子どもたちに指導する野村先生

後片付けをする子どもたちに指導する野村先生。作ってくれた人への感謝の気持ちを込めて、子どもたちは食器や食缶を丁寧に扱う。

ほどなく、野村先生の声が各教室のスピーカーから流れはじめた。ハンバーグの作り方や由来、日本へ伝来した経緯、また今日のハンバーグが手作りであることや、サラダに使われているきのこは今が旬で、体調を整え、おなかの掃除をしてくれる繊維がたっぷり含まれていることなど、今日の献立にかかわる話題を、野村先生はゆっくりと易しい言葉で伝えていく。

さらに今日が 「食器のスッ空カンデー」であることを告げる野村先生。

「みなさんの食器の中はスッ空カン!ですか? 食べものや作る人たちに感謝の心で、残さずいただきましょう」

スピーカーに向かって 「はい!」と返事をする子どもたちの声が、あちこちの教室から聞こえてくる。


見事にスッカラカンになった食缶と残食を入れるポリ容器

残食ゼロを目指す 「食器のスッ空カンデー」。食缶の中も、残食を入れるポリ容器も、まさに 「スッ空カン」だ。

放送を終えると、野村先生は1クラスずつ、食缶がカラになっているかどうか見て回る。カラでない場合は、給食係によそい方を指導するなどして、残食ゼロを徹底させる。そうして子どもたちは食べものの大切さを理解していく。

給食の時間が終わり、給食係の子どもたちが食缶・食器を片付ける。食缶の中も、残ったものを入れる容器も、見事にカラだ。

食べられない子への
個別指導

どもたちに声をかける野村先生

「ハンバーグにはニンジンも入っているのよ」と告げる野村先生に、 「ホントだ!」と子どもたち。野菜が苦手な子どもにも食べやすいように配慮された献立だ。

食缶の中に料理が残っていた場合、それがほんのわずかだったとしても、野村先生は見逃さない

食缶の中に料理が残っていた場合、それがほんのわずかだったとしても、野村先生は見逃さない。もったいないという思いが、子どもたちにも伝わる。

時間内に給食を食べ終えることができなかった子どもが、昼休みや掃除の時間まで教室で食べ続けているシーンは、見る方も食べている方もつらいものである。が、椿東小では、そのつらさとは縁遠い。

「食べることがつらい状況で食べる苦痛は、子どもを追い込んでしまいます。ますます食べることを嫌いにさせてしまいますよね」

とは言え、全員が時間内に食べ終えられるわけではない。そこで椿東小では、野村先生が3年前に椿東小へ着任して以降、空き教室を活用してランチルームを設け、食べることを苦手とする子どもたちのケアをしている。

「時間内に食べられなかった子どもは、トレーごとランチルームに持ってきて、食べられない子同士、一緒に給食時間を続けます。単に食べるのが遅い子もいますし、苦手なものでも、少しずつ、ゆっくりであれば食べられる子もいます。それから意外と多いのが、食べたことがない食材を前にしてもてあます子ども。そうした子どもたちの気持ちは、全体指導では見えてきません。個別に接してみて、初めて分かることなんですね」

食べれば栄養、残せばゴミ。環境問題にも絡めながら、子ども自身が自分の体を知り、本当に必要としているものを食べることの大切さを学べるよう、ランチルームでは丁寧な指導がなされる。

「食べられなかった子どもがちゃんと食べられるようになったとき、見せてくれる笑顔は格別です」と野村先生。


ランチルームでのケア

ランチルームでのケア。子どもの目線で、どうして食べられないのか、どうやったら食べられるのか個別に指導する。「今日は比較的人数が多いですね。きのこが苦手な子どもは多いんですよ」と野村先生。

そのランチルームの壁には、大きく筆文字でこう書かれている。

「食べもので体をつくり、食べ方で心をつくる」

野村先生が知人に依頼して書いてもらった言葉だという。食べることだけではなく、食べものを通じて人をはぐくむこと、それこそが 「食育」なのだ。

3要素と性格・行動との
相関関係

ランチルームに掲げられた、野村先生のモットーとも言える言葉。

ランチルームに掲げられた、野村先生のモットーとも言える言葉。自然の恵みに対する感謝、そして食べものに携わるたくさんの人への感謝。その気持ちがある限り、雑な食べ方はできないと野村先生。食育は、よりよい食を通じて人をはぐくむことだ。

ランチルームには、箸の使い方など食事マナーに関する掲示物も多い

ランチルームには、箸の使い方など食事マナーに関する掲示物も多い。 「低学年のうちは形から心を教えます。箸の持ち方など、低学年のうちに教えなければ正しい持ち方を習慣づけることは難しいと思います」と野村先生は語る。

「9月に行った最近の調査では、朝食欠食は8.6%にまで下がっています」

具体的なデータを見せてくださったのは、研究主任の前田先生だ。

「本校における食育の柱は、体の健康・心の育成・社会性の涵養・自己管理能力の育成という4つです。それぞれに学年ごとの目標を設けて指導しています」

最終的には、食に対する正しい知識をもって主体的に食とかかわることができ、食べものの大切さやそれをはぐくむ自然の素晴らしさを実感できる児童の育成を目指していると前田先生。

「もちろん、『子ども元気創造推進事業』のモデル校として、『食育』のみならず、『遊び・スポーツ』『読書』にも積極的に取り組んでいます。昨年度は『食、遊び・スポーツ、読書』と、『学力、情緒、基本的な生活習慣、友人関係』の相関関係について調査・分析を行いました」

その結果、 「読書」と 「学力」の相関は予想通りとしても、 「食」と 「情緒」、 「読書」と 「基本的な生活習慣」に強い相関が見られるなど、大変興味深い結果が得られたという。こうした分析結果は、保護者への面談や全体指導などの場で、効果的に用いられている。


野村京子先生
前田憲明(まえだ・のりあき)先生

「子ども元気創造推進事業」研究主任。 「モデル校としては今年度が最終となりますが、子どもたちの元気を創造するための取り組みは、今後も継続させていきたいですね。食べない・遊ばない・読まない児童のさらなる減少を目指します」