小学校の実践事例

地元の魅力を徹底追求!伝えたい思いが花を咲かせ、実を結ぶ
〜「ふるさと教育」×「はっぴょう名人」で情報発信〜
島根県・益田市立吉田小学校

吉田小学校校舎

子どもの世界は狭い。とかく、身の回りに起こっていることや、その住まう地域が標準的だと考えがちだ。しかし、その小さな世界の向こうには、より大きな世界が広がっている。おぼろげながらもそうした事実に気付きはじめた子どもたちが、狭いながらも奥行きある自分たちの世界の情報を、いかにして発信するのか。島根県は益田市、吉田小の4年生と6年生を取材した。

総合的な学習の時間で
ふるさと教育

吉田小4年生と6年生

4年生(左)と6年生(右)。地域のことを伝えたいという熱い思いは共通だ。

各地各校で取り組まれている「ふるさと教育」。島根県でも、学校と家庭と地域が一体となり、ふるさとに誇りを持ち、心豊かでたくましい子どもを育てることを目的として、2005年度より重点施策として進められている。

ここ吉田小では、どの学年においても「ふるさと」を題材とした学習を実施し、地域の自然、歴史、文化、伝統行事、産業など「ひと・もの・こと」と出会い、親しみ、学びを深めている。

中心となるのは総合的な学習の時間。3年生は「石州和紙」「津和野」、4年生は「食」「島根を有名にする」、5年生は「高津川」「アユ」、6年生は「平和について」「益田のよさを伝える」をテーマに、それぞれ半年ずつ取り組み、掘り下げる。その学習の成果は、随時ホームページにアップ(公開)されていく。


今回は、4年生の「“ふるさと島根”を“ぶち”調べて、島根を“ぶち”有名にする!プロジェクト」と、6年生の「伝えよう益田の魅力!〜人・もの・こと〜」の授業を取材した。どちらも課題解決のための調べ学習と情報発信を主軸に据えた単元だ。

えっ!?
島根って有名じゃないの?

グループごとに座り、パソコンを使用する4年生

グループごとに座り、パソコンを使用する。限られた環境での共同作業から学ぶことは多い、と長島先生。

パソコン室にお邪魔すると、すでに4年3組の子どもたちが『はっぴょう名人』を立ち上げ、プレゼンテーションシートの作成に取り掛かっている。

パソコンは20台。14のグループに分かれ、グループごとに相談しながら作業が進められる。すでにかなり作り込んでいるグループも多い。

子どもたちの手元には、このプロジェクトのために作成した企画書が置かれている。この単元の端緒は、島根県が意外と他県の人々、特に首都圏の人々に知られていないことに対する、子どもたちの純粋な驚きにある。子どもたちが思うほどに島根は知られていない。その事実ゆえに、子どもたちは「島根の魅力をインターネットで多くの人に伝えたい」という強い思いに駆られている。

子どもたちの企画書

子どもたちの企画書。これだけの基礎がしっかりと作られているので、子どもたちもゴールを見据えて作業ができる。

企画書には、そのためにどんな調べ学習をすべきか、どういった形で島根をPRするのか、活動の目的や流れ、取材内容などが子どもたち自身の手によって明確に書き込まれている。企画書はいつでもそこに戻り、確認することができるアイテムだ。そうしたしっかりとした軸があらかじめ作られているからこそ、子どもたちの活動にもブレがない。

ちなみに単元名「島根を“ぶち”有名にする!」の“ぶち”は、30年ほど前から山口を中心とする地域で使われるようになった「新方言」で、「打つ(ぶつ)」に由来し、「とても」「すごく」といった意味で使われている。こうした新方言を単元名に組み込むことで、子どもたちは自然に「地域」というものを意識するのだ。

操作を教え込まない
そのメリット

4年生の作品表紙 ブドウ 島根ワイナリーを調べましたテーマ&ゴール テーマは、島根ワイナリーを観光客でにぎわせたい。ゴールは、島根(ブドウ)を有名にするために、ブドウのPRグッズをつくる。島根ワイナリーの行き方 島根の特産品 出雲はブドウ・イチジク。益田は山椒・ユズ・メロン ブドウ料理 ブドウシャーベットの作り方紹介 PRグッズ Nameシール、ブドウのしおり、ブドウのぬいぐるみ

日本酒やワインなど、一見、子どもには難しそうに思える素材にも果敢に挑戦する。自分で体感することができないものは、インタビューなどの取材が重要となってくる。

子どもたちのプレゼンシートは、シンプルで見やすく、とても分かりやすい。最初からそうした指導がなされているのだろうか。

「いいえ、最初のうちはいろいろな機能をあれこれと使いたがり、それはそれはゴチャゴチャとした、見づらいものを作っていました」

担任の長島先生はそう言って笑う。新しいソフトウエアを導入しても、最初からあまり使い方や機能などを教え込まないのだと長島先生。

「子どもたちは放っておいても自分でいじります。それに、いろんな機能は自分で発見してこそ驚きがあり、また操作も覚えます。見やすく分かりやすいものを作れるようになるまでに時間はかかりますが、子どもたちが試行錯誤し、己の中で自然と淘汰されるからこそ、発信する際のコツも身に付くのだと思うのです」

先生があらかじめテンプレートを用意し、こうすれば見栄えの良いものができると手を引っ張るのは簡単なことだ。しかし、あえて後ろから見守り、子どもたちが振り返ったときに手を差しのべ、助言する。こうすることで、子どもたちが自分のペースで「学び」を消化できるのだと長島先生は言う。

※元来の方言であるとする説もあります。



長島靖和先生 長島靖和(ながしま・やすかず)先生

4年3組担任、メディア教育主任。吉田小のホームページ制作をリードする。

「ブログをうまく活用すると、全教員を巻き込めます。よくある一極集中的な負担も回避できますし、保護者の方々も気にかけてくださる。携帯でも気軽に見られますしね」




野村康徳先生 野村康徳(のむら・やすのり)先生

6年1組担任。
「『ふるさと教育』を通じて益田を支えている人たちとかかわることで、 子どもたちだけでなく、私たち教師も、そして保護者もつながっていくことが1番の収穫ですね」