小学校の実践事例

地場米と共に育つ子どもたち 地域を学び地域を愛する 
〜アンケートの結果をまとめ、お世話になった人たちへ提案〜
熊本県・久木野村立久木野小学校

一人ひとりの挑戦

「久木野米を食べたことはありますか?」「お米の安全を 気にしていますか?」
など、5つのアンケート設問ごとにシートをまとめていく。

アンケートの結果をグラフにする

「『結果がこうでした』だけじゃなくて、そこから『気づいたこと』『分かること』を書いていくんだぞ」と、声をかける先生。子どもたちはアンケート結果のグラフを見つめ、そこから気づいたことを文字にし、何度も書き直しては考えを整理、集約させていった。

授業が終わりに近づくと、先生は作業をひとまず切り上げさせて、一通りのまとめを終えた子どもに発表を促した。
「農薬を気にしている人が多いので、そこを宣伝したら、もっと売れるようになると思います」
「安すぎると安全が気になるので、2,000円くらいにしたらいいと思います」

胸を張って発表を終えた子どもたちの後を引き取って、田辺先生は言う。

 

ステップアップを重ねて制作されるチラシ

一人ひとりの取り組みを深め、それらを集約してひとつの成果を生み出していく。新米まつりに先立って作られたこのチラシも、そんな過程を経て制作されたものだ。

「2人の発表の中から、いろいろな提案をしていけそうな要素が見つかるね。久木野で作っている米の品種は何だったか。それはどうしてなのか。他の品種を作ったらどうなるだろうか。たくさん考えることができそうです。久木野村がもっとよくなるように、役に立つアイデアを出していけるように頑張りましょう」

本日の授業はここまで。元気なあいさつの声を残して、子どもたちはパソコン教室を後にした。

「今日はみんな一人ひとりにアンケートの結果をまとめてもらっていますが、これができあがったら、次はいくつかの班で、まとめたものを作っていきます。最初にあえて一人ひとりでの作業にこだわっているのは、子どもたちの持っているものをできるだけ引き出したいからなんです」と田辺先生。

久木野村では、一村一校、各学年とも1クラスという環境の中、子どもたちは保育所から中学校までの約12年間を同じクラスメイトたちと過ごす。そのことにはたくさんのいい面もあるが、ともすればお互いの気心が分かりすぎることで、子どもたちの間にある種の分業ができてしまうことがあるという。

「そうなると、これは誰それの分担、あれは誰それの役目という風になってしまい、本当はその子が持っているはずの力が表に出てこなくなってしまうことがあるんです」

そのため時間はかかっても、まず一人ひとりが課題に向き合った上で、その成果を班で、クラスで集約していくというプロセスにこだわるのが田辺流なのだ。

この土地を愛して

子どもたちはみんな仲良く、協力し合っている

実は久木野村は、昨今の町村合併の流れの中、平成17年2月をもって、近隣の2村と合併することが決まっている。新しく生まれる南阿蘇村は、一連の合併が終わると、県内唯一の村となる予定だ。

「この合併で、自治体としての久木野村はなくなりますが、地域がなくなるわけではありません。自治体というくくりがなくなっても、地域の伝統やまとまりを大切にしていきたいという機運は、むしろ高まっていると感じます。私はこの村の出身ではありませんが、この土地に強く魅せられている一人として、子どもたちにもこの土地を愛してほしいと思っています。全員は無理であっても、一人でも多くの子どもが、将来もこの地域で暮らしていきたいと思ってくれれば本当に嬉しいのです」

自分たちの暮らす土地を愛し、地域の人たちとの交流 を深める。久木野小学校の情報教育では、新しい技術が、人の気持ちを通わせる大切な道具として生かされていた。

◆久木野村立久木野小学校

熊本県阿蘇郡に属する久木野小学校は、阿蘇外輪山のふもとに位置し、阿蘇五岳を望む雄大な景観に恵まれている。中野晃校長。児童数132名。

取材/西尾琢郎 撮影/齊藤浩
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。