小学校の実践事例

メディアの活用で意欲を高める 育成学級における取り組み 
〜目的に応じたメディア選択で子どもの力を伸ばす〜
京都府・京都市立桂坂小学校

桂坂小学校

京都市立桂坂小学校の育成学級“やまゆり学級”では、昨年から学習にパソコンを活用している。それぞれの子どもの課題に応じたソフトを選択して意欲を引き出す学習の様子を取材した。
また、昨年行われた交流学習を通して成長を遂げた、子どもたちの姿もあわせて紹介する。

それぞれの課題に合った学習ソフトを選択 育成学級における情報教育

“やまゆり学級”には、さまざまな障害を持つ10人の子どもたちが在籍している。今日は、週に一度のパソコンの時間。子どもたちは先生と相談しながらソフトを選び、席に着く。それぞれ課題が違うため、使うソフトも異なるのが、やまゆり学級の特徴。算数の力を身につけたり、言葉の学習をしたりとジャンルもさまざまだ。

「ヤッター!」と、うれしそうにバンザイをしている男の子は、足し算のソフトに夢中。画面には何枚かのトランプが並んでいて、方向キーでクマのキャラクターを移動し、答えのトランプを選ぶ。正解すれば、ファンファーレが流れるという仕組みだ。

それぞれにあったソフトで取り組む

隣の男の子も足し算の練習をしているが、こちらはサッカーバージョン。答えをテンキーで入力し、正解するとシュートが決まる。大好きなサッカーとあって、くい入るように画面に集中している。

このほか、ペンタブレットを使ってお絵かきをしたり、文字を書く練習をしたりと、皆、意欲的に取り組んでいる姿が印象的だった。

「同じ計算練習でも、キャラクターや効果音などによって、子どもたちが興味を示すソフトは異なります。それぞれこだわりがあるようです(笑)。気に入ったソフトは何度も繰り返しチャレンジしていますよ」
と、担任の河合則子先生。パソコンを使った学習はノートや問題集で取り組む学習と比べて、映像や効果音が感覚に訴えるので、子どもたちに有効に働く。

ティームティーチングの山本直樹先生は、
「育成学級の子ども達は、集中力に課題があるケースが多くみられますが、一度その子にあったソフトを見つけると、長いときは2〜3か月継続して取り組むこともあり、その子なりの成果が必ず出てきます」
と、パソコンを使った学習が、確実に学力の向上に結びついていると評価する。

また、やまゆり学級は1クラスの人数は少ないが、一人一人の課題が異なるため、教師の立場からすれば教材の準備も容易ではない。その点をカバーできるという利点もあるようだ。パソコンの授業を始めた当初は、マウス操作さえ可能かどうか心配だったが、ほとんどの子どもが軽く乗り越えたという。

ここで、授業の前半が終了し、何人かの子どもは下校の時間となったが、 「さあ、今日はこれで終わりです!」 と先生が声を掛けても、なかなかパソコンから離れない子どもの姿も。
「それじゃ、あと1回正解したら終わろうね」 と言われ、なごり惜しそうにパソコン室を後にした。

絵と言葉を組み合わせる学習
シールづくりで子どもたちの意欲がアップ

授業の後半は、3人がパソコン室に残ってシール作りに挑戦する。シール作りは、マンツーマンで指導しながら交代で取り組んでいる課題だ。

自分だけのシールを作成中

まず、『はっぴょう名人』を立ち上げ、好きなジャンルのイラストを選んで貼り付けていく。スポーツに関するイラストを貼り付けている女の子に、
「この紙に、4つのイラストを入れようね。もう少し小さくしないと入らないよ」
と先生がアドバイス。マウスを使ってイラストを縮小し、ていねいに並べていく。

「先生できたよ」
「じゃあ次は、イラストの下にスポーツの名前を入れよう」
女の子は“からて”“やきゅう”“とびばこ”“すいえい”と入力する。このシール作りは、絵と言葉を一致させる言葉の学習がテーマだ。

文字の入力には、画面上に並んだ文字をマウスでクリックする[クリックパレット]を使う。
「学習目的でパソコンを使う場合、どうしても文字入力作業が必要になります。でも、クリックパレットならマウスを使って文字入力ができるので、学習の可能性が広がります」
と、山本先生は言う。

昆虫に興味がある男の子はカブトムシとクワガタのイラストを選択。普段から、色紙でクワガタを作るのが得意なのだそうだ。
「うわー、ノコギリクワガタだ! 大きいのがいいよ」
大好きなノコギリクワガタを大きく拡大する。

「できた!どこに貼ろうかな?」

こちらの女の子は花のシールを作成中。どの花を選ぶか迷っているようだ。

「たくさんお花があるけど、名前を知っているお花じゃないとダメだよ。知っているお花は?」
先生がたずねると、
「そうか、名前の練習だね」
と納得した様子。

チューリップやアサガオなど4つのイラストを選んで、名前を入力した。それぞれの作品をシール用の紙に印刷すれば、自分だけのオリジナルシールが完成だ。

やまゆり学級の子どもたちはシール作りが大好きだ。学習の成果物として、自分が作ったものが手に取れるというのは、大きな意欲付けにつながる。
「成果物としては普通紙に印刷するケースが多いですが、ここではシール紙にすることが意欲付けのひとつの“しかけ”になっています」
と、山本先生。単なる印刷物で終わらず、筆箱やカバン、机などに貼ることで、子どもたちはより大きな喜びを感じることができ、それがさらなる学習への意欲につながるのだ。

保護者からは、
「カブトムシのシールは本人も喜んで、好きな所に貼ってあります。羽化、さなぎ、成虫など細かい点も覚えてスケッチできるようになりました」
といった声も寄せられたという。