小学校の実践事例

“指導の三原則”&ツボを押さえた教え方 自主性を重視したパソコンへの取り組み
〜文集作りにチャレンジする6年生と明るく意欲的な先生たち〜
埼玉県熊谷市立籠原小学校

明るく元気な職員室の雰囲気 コンピュータ室は予約でいっぱい

予約はいつもいっぱい

“まずやってみよう”というのも、関根先生の基本姿勢のひとつだ。

「関根先生に『デジカメの使い方を教えてください』とお願いしたら、『まずは自分でやってみてください』と言われたんです。パソコンは教わるものという考えが変わりましたね」とは、6年1組の陸名佐知子先生。

関根先生は、「最初に私が音頭を取った部分はありますが、先生方のやる気と明るさで、みなさんみるみるうちに上達されました。前にいた学校でも、先生たちの記録簿や成績などのフロッピー提出を推奨していたのですが、浸透率は3分の1から半分止まり。でも、籠原小学校では、現在、全員がフロッピーで提出しています」と、先生方の上達ぶりを語る。

さらに、「話し好きな先生が多く、女性の先生方も、コピーだ、貼り付けだ、と日常的にパソコンの操作のことを話題にしているので、つい周りも気になって話に参加したりするんです」職員室の明るさと元気、そして先生たちの意欲が、学校でのパソコン利用の相乗効果となったのだ。

関根先生に促されたほかの先生たちは、どんどんパソコンに触るようになり、職員室にはパソコンの話題が飛び交う。それまでやっていなかった先生も、話題につられ、だんだんパソコンの世界に引き込まれていき、籠原小学校の先生全員がパソコンを使えるようになったという。『総合的な学習』はもちろん、理科や社会のまとめや調べもの、音楽の作曲など、授業でパソコンを利用する機会はぐんと増え、コンピュータ室は1週間先まで予約でいっぱいだ。

「参観日などが近づくと、予約がさらに増えるんですよ。隣のクラスがパソコンで掲示物を作っていたりすると、足並みをそろえなくちゃ、なんて」と、陸名先生は笑う。

このコンピュータ室の使用についても、あらかじめ時間を割り当てると、コンピュータを使うことだけが目的になってしまうという考えから、1週間前より自分で予約するスタイルだ。ここにも、先生たちの自主性に任せる基本姿勢を見ることができる。

初心者先生の助けになった個人カルテ 小学校と中学校の橋渡しの役目も

熊谷市で作成している“コンピュータ操作個人カルテ”も、パソコン初心者だった先生たちの指導の助けになった。この個人カルテは、ローマ字入力で文章を作成することができる、ワープロソフト・お絵かきソフトなどを使って表現ができるなどの、基本操作の達成度チェックとして使われる。パソコン初心者の先生にとって、子どもたちがどんなことをできるようになればいいのかを知る手がかりにもなる。

 

コンピュータ操作個人カルテ(C)熊谷市教育委員会

コンピュータ操作
個人カルテ

これが熊谷市立教育研究所の協力委員らで作成した“コンピュータ操作個人カルテ”だ。協力委員のメンバー5人はすべて熊谷市の公立小・中学校の先生。

(C)熊谷市教育委員会

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関根先生は、カルテ作成のメンバーの1人で、「チェック表は、スキルを数値化することで達成度がわかり、成果があがることを期待して作りました。テストではなく、自己申告で記入します」と、テストではないことを強調する。チェック表になっていると、子どもは自分の達成度が分かり、「これができた!」とうれしくなって達成度もあがる。それまでパソコンを使った授業をやったことがなかった先生たちも、子どものカルテに○をつけてあげたいので、「私もパソコンの授業やらなきゃ!」となって、コンピュータ室の予約はどんどん埋まっていったという。初心者の先生がパソコンの授業を始めるきっかけとして、“子どもたちのため”という動機はわかりやすかったということだろう。

小学校が修了すると、6年生のカルテは、進学する中学校に送られる。小学校での達成度を理解したうえでの有効な指導ができ、中学校の先生にも好評だ。小・中学校の情報教育の橋渡しの役目も担っているのだ。

いよいよ授業は終了 最後にデザインのポイント

さて、そろそろ授業も終わりに近づいてきた頃、写真撮影班がコンピュータ室へ戻ってきた。その写真を使って、文章入力班で作業が早く進んだ数名が、入力し終えた文章にスキャンした写真を貼り付けはじめる。「写真を何点も載せる人は、表情のいい写真を大きくするなど工夫をして」と、ここでは、デザインのポイントを押さえたアドバイスを織りまぜる。

もうすぐ完成!

時間内で文章の入力と写真の貼り付けができた子どもたちは、エプソンのカラーレーザープリンタ『LP-8300C』で、その紙面をプリントアウト。文集1ページにつきクラス全員分の計36枚をカラーで印刷する。量の多さを感じさせない、高速プリントときれいな写真の仕上がりに、子どもたちはとっても満足そう。

時間内にはできなかった子どもたちも、2〜3時間のうちには順次仕上げられそうな様子だ。
「表紙も、パソコンを使ってひとりひとり好きなように作らせようと思います」

パソコンやプリンタを道具に、自分で考えたテーマを綴り、イメージを描く。自主性を重視し“ツボ”を押さえた関根先生の指導のもと、オリジナリティあふれる文集が、子どもたちの手によってできあがっていった。

◆埼玉県熊谷市立籠原小学校

2001年で開校30周年を迎えた情報教育先進校。『総合的な学習』を「かごはらタイム」と呼び、地域との連携や、コンピュータの積極的活用による情報教育を行っている。学校のホームページでは、地域や商店街についての6年生ひとりひとりの調査研究の成果を公開している。各学年3〜4クラス、生徒数759名。

取材・文/中上直子 撮影/吉竹めぐみ
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。