日本語の使い方
──地域差をみる──
地域差があることを仮定して質問したものを見ていくことにします。
2004年の調査の経験で、地域差をみるために、今住んでいる都道府県と出身小中学校のあった都道府県が一致する人を抜き出して集計する方法をとりました。
各都道府県ごとに集計すると、アンケート回答者数にばらつきが出てしまうため、集計結果の信頼性がかなり低く、あまり確実でなくなってしまいます。
そこで今回は、北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州の8地方区分に分割して集計することにしました。(三重県は近畿に入れました。)
[1]相手に名前を書くように言うときに「ここにお名前を書かれてください」という言い方は自然な言い方ですか。
  1. 自然な言い方だ
  2. 少し不自然な言い方だ
  3. 非常に不自然な言い方だ

この言い方は、全国各地に「自然だ」という回答が少しずつみられました。「少し不自然」の分布のようすから、九州(それに北海道と東北)で、許容する人が少しいることがわかります。中央部では「非常に不自然だ」という回答が多くありました。
日高貢一郎(2005.5)「新しい敬語表現「〜されてください」の広がり」日本方言研究会第80回発表原稿集 によると、
日高の調査でも、文化庁の調査(こちらで待たれてください)でも、『NHK 放送研究と調査』(2000.12)の調査結果(ここにお名前を書かれてください)でも、九州中心に分布している
とまとめられています。

今回の調査結果から、安定してたくさん使われている言い方ではなさそうですが、中央部以外で使われる可能性のある言い方であることが確認されました。
なお、全国各地にみられることの説明はむずかしく、使っている人にとっては「方言」と意識されない言い方なのではないでしょうか。そのため、引っ越した人などが使い、周りに広げている面があるのではないでしょうか。

「相手に名前を書くように言うとき」集計グラフ



[2] トランプを手に持ってよく混ぜることを何といいますか。一番多く使う普通の言い方を答えてください。
  1. きる 
  2. くる 
  3. シャッフルする 
  4. まぜる 
  5. その他 

全国的に「きる」が多数を占めますが、近畿から西の地方では「くる」も使われます。「シャッフルする」は各地にあり、共通語的ですが、まだ「きる」に取って代わるほどの勢力にはなっていません。
「くる」は九州の中では福岡県だけに見られ、中国地方に接する県だけで使われていることになります。つまり、「くる」の分布地域は連続しているわけです。今回のデータでは、分布の中心地がわかるほどの偏りはなかったので、生まれた場所の推定は困難でした。

「トランプを手に持ってよく混ぜる」集計グラフ



[3] 学校で先生に指名されることを何といいますか。一番多く使う普通の言い方を答えてください。
  1. あてられる
  2. さされる
  3. かけられる
  4. その他

全国的に「あてられる」が多いですが、関東では「さされる」が多く、東北は半々です。
東北を県別に見ると、福島では「さされる」が多く、青森・岩手・秋田では「あてられる」が多い結果でした。
中部地方の中では、山梨県と静岡県が「さされる」が多く、これらのことから「さされる」は関東地方を中心とした分布になっていることがわかります。関東の「さされる」が九州にもある程度広がっていることも不思議な現象です。
なお、「かけられる」は山形県と新潟県だけに見られる言い方です。

「学校で先生に指名される」集計グラフ



[4] カレンダーやポスターなどを壁に貼るときに使う、手で持つ部分の付いた小さな針を何といいますか。
  1. 画鋲(がびょう)と押しピンの両方とも言う
  2. 画鋲と言い、押しピンとは言わない
  3. 押しピンと言い、画鋲とは言わない
  4. その他

これは明確な東西分布を示します。
中部から東は「画鋲」の地域で、近畿から西は「押しピン」の地域です。ただし、西日本でも「押しピン」の単独使用はあまりなく、多いのは「画鋲」との併用型です。 「画鋲は関東、押しピンは関西」といわれますが、そう単純ではなさそうです。

画鋲と押しピン集計グラフ

[4-1] (上の質問で1. と答えた人に)画鋲と押しピンは同じものですか、違うものですか。
  1. 同じものだ
  2. 違うものだ

「上の質問で1. と答えた人に」と限定して、両方使う人にだけ質問したのですが、片方しか使わない人の回答も多かったです。 そこで、両方使う人と片方だけ使う人の「同じか違うか」の回答を地方別(県別)に集計して比較してみると、ほぼ差がないことがわかりました。そこで、ここでは、両方使う人に限定せずに集計することにします。

「画鋲と押しピン」集計グラフ

この質問でも地域差がはっきりしています。近畿から西では画鋲と押しピンは同じものだとする回答が多く、中部から東は違うものだとする回答が多くみられました。

「違うものだ」とする人にどう違うかを尋ねることは省略しましたが、両者を区別する人は、以下のように区別しているのではないでしょうか。

A:(画鋲)全体が金属製で、金色をしており、持つ部分がひらべったい円盤形をしているもの
B:(押しピン)針だけが金属製で、持つ部分はプラスチック製で、いろいろな色をしていて、形はひらべったくなく、球状だったり、ドライバ(ねじ回し)を小さくしたようなもの

当然、Aが古くBが新しいものです。そこで、この2語をめぐる時間的変化は、次のようなものと考えられるのではないでしょうか。
古くは、Aしか存在しなかったころ、東日本で「画鋲」、西日本で「押しピン」と呼んでいました。「画鋲」と「押しピン」は、人々の往来などで、それぞれの名前が相互に伝えられることはあっても、それぞれの地域ですでに名前が確立していたため、新しく伝えられた名前が普及することはありませんでした。
   
Aに関して、東日本の言い方が共通語と意識され、「画鋲」が西日本でも次第に使われるようになり、西日本では(画鋲が共通語、押しピンが方言として)両者が併用される状況が生じてきます。
   
新しくBというものが使われるようになりました。BはAと機能が同じですから、西日本では、新しい名前を付けることなく、BもAと同じく共通語しては「画鋲」、方言としては「押しピン」が使われ続けました。
   
一方、東日本では、AとBを区別せずに「画鋲」と呼ぶ人もいましたが、形が違うので、新しい名前で呼びたいと考える人もいました。 すると、以前から耳にしていた「押しピン」という言い方があり、西日本の人はBを「押しピン」と呼んでいます。
   
東日本でもこれを取り入れBを「押しピン」と呼ぶのが便利。そう考え、Aを「画鋲」、Bを「押しピン」と区別する人も出てきました。



[5] あなたの現住地近辺(同じ県内)の看板やチラシなどで、毎月料金を支払う駐車場のことを(「月極駐車場」や「月決め駐車場」ではなく)「月決駐車場」と書いてあるのを見たことがありますか。
  1. 見たことがある
  2. 見たことがない

この項目は、2004年のアンケートでもとりあげたもので、そのときは、質問文が違っており、当面の結論として、次のように述べていました。
「月決め駐車場」や「月極駐車場」は全国に分布することが知られていますが、「月決駐車場」は分布が偏っているようです。高知県に集中しており、また一方では北東北にも見られます。群馬県や宮崎県など離れた場所で「見たことがある」が30%以上を占める県もあり、不思議な分布です。
このような都道府県単位の偏りをみるため、今回は、ここだけは8地方区分でなく、都道府県別に集計します。また、「今住んでいる都道府県と出身小中学校のあった都道府県が一致する」という条件を外し、回答者全員を取り上げることにします。

「駐車場」集計グラフ

「見たことがある」という回答は、岩手県、秋田県、群馬県、愛媛県、高知県、佐賀県、宮崎県などで多くなっており、2004年の調査結果と同様の結果になりました。ということは、これらの県に多いことが確認されたといえるのではないでしょうか。
(今回だけのデータでは、回答者が少なくて、自信を持って主張することはできないのですが。)



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update:2005.10.17