──日本語の地域差──
(1)ゆれを見ていく方法
  日本語には、地域差だけでなく、さまざまな「ゆれ」があります。ここでは地域差を示さないものについて順次見ていきましょう。回答者がどんな人かを知るための手がかりとなる項目をフェイスシートなどといいますが、今回は、年齢差と男女差を見ることにしました。年齢差を見るために、無回答の人(104歳と計算された人)を省き、あとは、10歳ずつの幅で区切って、集計することにしました。
(2)外来語の見聞と理解
  外来語としてインターンシップ,ポテンシャル、コンテンツ、コラボレーションの4語を取り上げ、見たり聞いたりしたことがあるかとたずねました。

それぞれの意味は、次の通りです。

インターンシップ 学生が行う企業などでの就業体験制度
ポテンシャル 潜在能力や可能性
コンテンツ 中身、内容(特にコンピュータ関連でソフトのこと)
コラボレーション 合作、提携、協調


全体としての、見聞率(見たり聞いたりしたことがあるという回答の比率)は、次の通りです。

インターンシップ 71.19%
ポテンシャル 95.72%
コンテンツ 99.04%
コラボレーション 95.66%


見聞率は予想以上に高かったです 。
ちなみに、平成14年に文化庁が行った全国調査によれば、見聞率は、次の通りです。

インターンシップ 28.1%
ポテンシャル 38.5%
コンテンツ 49.6%
コラボレーション 43.8%


2年程度で、これらの語が急激に普及するということは考えにくいです。したがって、今回の調査の回答者が「外来語に関する知識が多い」と解釈しております。特に「コンテンツ」の見聞率が高いですが、回答者がWWW利用者ですので、こういう語に普段から親しんでいることをうかがい知ることができます。
比較的年齢差が大きいものとして「インターンシップ」を見てみましょう。


「インターンシップ」を見聞きしたか
  ある ない
10代 158 95
20代 1554 298
30代 3014 1135
40代 2891 1256
50代 1515 674
60代 580 364
70代以上 172 173

20代で見聞率が最高になります。この語に興味と関心が一番高い世代です。それよりも上の世代では年齢が高いほど見聞しないことになり、外来語で表される新語との接触率の多少を反映するものと思われます。10代の見聞率が低いのは、言語習得の途中という見方もできます。
見聞率では、男女差は見られませんでした。
なお、外来語4項目については、見聞経験を尋ねた次に「意味がわかるか」とも聞きましたが、こちらは年齢差も男女差もありませんでした。ただし、「ポテンシャルの意味がわかるか」の項目だけ男女差があり、「わかる」の比率が男性に高く、女性が低いという結果になりました。
 
(3)慣用句
  ここでは、いくつかの慣用句について年齢差を中心に見ていくことにします
「けんもほろろ」と「よんどころない」は、年齢別に見てみると、若い人ほど使わない言い方です。

「けんもほろろ」の年齢差
  使う 使わないが、
意味はわかる
使わないし、
意味もわからない
10代 6 50 197
20代 120 964 768
30代 615 2691 843
40代 1311 2529 307
50代 1075 1055 59
60代 632 307 5
70代以上 229 112 4

「よんどころない」の年齢差
  使う 使わないが、
意味はわかる
使わないし、
意味もわからない
10代 11 78 164
20代 193 871 788
30代 887 2469 793
40代 1520 2425 202
50代 1001 1147 41
60代 585 348 11
70代以上 255 89 1

「怒り心頭に〜」では、動詞を答えてもらいましたが、正しい動詞(辞書に載っているもの)は、「発する」および「起こる」(ごく一部の辞書に記載あり)です。年齢別に集計すると、次のようになります。

「怒り心頭に〜」の年齢差
  達する 発する 起こる なる 来る こういう言い方をしない わからない
10代 120 23 4 38 17 72 21
20代 1146 224 6 309 54 290 67
30代 2623 686 20 449 122 527 87
40代 2610 876 11 278 140 486 37
50代 1384 505 8 103 91 196 16
60代 538 267 11 32 66 74 9
70代以上 176 120 3 9 27 27 1

年齢が高いほど正しい動詞を知っていますが、現在では、70歳以上でも「達する」のほうが「発する」よりも多くなっています。10代は、「こういう言い方はしない」24.41%や「わからない」7.12%が多く、すでに自分自身では縁遠い表現になっていることがわかります。
「とんでもなかった」については、二つの文脈で日本語として自然かどうかを尋ねました。二つの文脈とも、WWWで実際に現れる用例(いわゆる実例)です。第2の用例は「まぁセミナー終わったあとのあの雨のすごさは・・・・食べる予定だった焼肉屋までいくのにとんでもなかったです。高架下をとうろうものなら道路が水没してて横の手すりにあがってわたらなければならなかったりととんでもなかったです。」というもので、厳密にいえば2個の用例ですが、文脈からは2回を区別する必要はほとんどないように思われますので、質問の時にも区別せずに1回の質問で尋ねました。

図9「博物館がとんでもなかった!」は自然か
  自然 やや不自然だ 非常に不自然だ
10代 47 140 66
20代 305 963 584
30代 646 1976 1527
40代 456 1699 1992
50代 179 683 1327
60代 73 279 592
70代以上 18 87 240

図10「雨のすごさはとんでもなかったです」は自然か
  自然 やや不自然だ 非常に不自然だ
10代 32 79 142
20代 199 603 1050
30代 534 1514 2101
40代 416 1522 2209
50代 150 647 1392
60代 40 222 682
70代以上 8 71 266

結果は、年齢差が大きく出ました。不自然だとする回答は年齢が高いほど多く、年齢が低いほど少ないです。もともと「とんでもなかった」という言い方は、不自然だったのに、現代では許容されはじめていると言えるでしょう。
身近な学生たちに聞いてみたところ、「とんでもない」の過去形としての「とんでもなかった」は、許容する人が大半でした。今回の調査では、不自然だとする人たちの比率がかなり高く、それと比べると、今回のアンケート調査の回答者は規範的な回答をする傾向があるようです。前述の外来語の見聞率(知識)とも関連している傾向だと考えられます。
「上〜下への大騒ぎ」については、正しい言い方「を」はきれいな年齢差を見せ、さすがに高齢層はよく知っていらっしゃるようです。中年層は「へ」が多く、10代は「から」が多くなります。「こういう言い方をしない」も10代で非常に多く、10代は表現を知らないことがよくわかりました。

「上〜下への大騒ぎ」の年齢差
  から こういう
言い方をしない
わからない
10代 120 34 11 80 2 3 38 18
20代 1033 363 220 336 10 21 153 57
30代 2242 1010 828 356 6 36 214 44
40代 2176 1091 983 281 5 19 110 8
50代 1058 630 549 139 4 15 32 3
60代 371 320 276 83 2 11 14 1
70代以上 83 118 142 21 1 2 5 0

辞書では「を」だけが見られますが、最近はいろいろな助詞が使われはじめています。識者から見れば「ことばの乱れ」であり、今の若者は正しい日本語を知らないと非難されそうですが、今や「へ」が主流になっています。

「お殴りになります」や「備長炭の読み」については、ゆれが見られませんでした。
「お殴りになります」が正しい言い方かどうか尋ねた結果は、以下の通りです。

正しい 1830人 13.2%
正しくない 9975人 71.7%
どちらともいえない 1638人 11.1%
わからない 560人 4.0%


また、「正しい」と回答した人に「お殴りになります」が使える場面が考えられるかどうか尋ねた結果は、以下の通りです。

考えられる 1283人 71.2%
考えられない 520人 28.8%

実は、言語における「正しい」とはどういうことかという問題がありますが、ここでは回答者の判断に任せることにしました。
動詞の尊敬語形を作り出すルールからいえば「お殴りになります」という言い方は正しいと言えます。ただし、実際に使われる場面が思いつきません。こんな結果になったことを予想して質問しましたが、結果は外れてしまいました。
次に備長炭の読みは以下の通りです。(「びんちょうたん」および「わからない」は、他と共起するときは除外しました。)複数回答を複数として数えて集計したので、単位は「個」です。

びんちょうたん 12812個 92.0%
びんちょうずみ 196個 1.4%
びんちょうすみ 59個 0.4%
びっちょうたん 757個 5.4%
びっちょうずみ 19個 0.1%
びっちょうすみ 19個 0.1%
その他 50個 0.4%
わからない 11個 0.1%


今や、圧倒的に多数の人が「びんちょうたん」と読んでいます。しかし、現行の国語辞典は「びんちょうずみ」を載せるのが大部分であり、「びんちょうたん」を載せるのは、三省堂国語辞典第5版(2001)、日本国語大辞典(小学館)第2版(2001)など、最近のごく一部の辞典だけであり、多くの辞典では見出しがないか、あっても「びんちょうずみ」を掲載しています。ここは最近の言語変化に国語辞典が追いついていない状態だからでしょうか。
ところで、慣用句の項目で男女差がある場合もありますが、それはごく限られた項目です。一番大きな男女差は、「よんどころない」で、男性の使用率は33.35%(3808/11418)女性の使用率は26.24%(652/2485)で、7ポイントほどの差です。計算してみると、0.1%レベルの有意差がありますが、男性の使用率が高いことにどんな意味があるでしょうか。「よんどころない」がビジネス用語なのでしょうか。

慣用句ではありませんが、「来ることができる」意味のコレルは「ら抜き言葉」の 典型として知られていますが、これにも年齢差がはっきり見られ、若い人で普通に 使う言い方になっています。

コレルの年齢差
  普通に使う たまに使う 使わない わからない
10代 134 73 44 2
20代 1033 540 269 10
30代 2014 1327 798 10
40代 1572 1516 1048 11
50代 695 762 724 8
60代 227 310 405 2
70代以上 70 107 167 1



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update:2004.12.2